助手Aさん劇団訴えたみたいよ
電気按摩で失踪した演出助手のことも最後に書かれてた

文春11月16日号より
 >それでもAさんは再び這い上がろうとした。3カ月間の休職を経て、もう一度劇団に戻ってきたのだ。

 ところが、演出家たちに復帰の挨拶をすると、

「どの面下げて戻ってきたの。向いてないから、やめた方がいいんじゃない」

 心無い言葉がU氏から返ってきた。こうしたハラスメントを目の当たりにした企画室長はAさんにこう言葉をかけたという。

「企業は弱い方を守るよ。ただ、強い人は強いから、どこまで守れるか……」

 実はこの時期、現役タカラジェンヌたちからも「もうU先生とは一緒に仕事したくない」という声が噴出し始めていたという。

「現役の生徒全員が加入する、タカラジェンヌの労働組合的存在である『女子会』の総会でも、Uのパワハラが議題になった。このことは劇団の総務部にも伝わったが、結局、劇団はきちんとした調査を行わなかった」(別の劇団関係者)

 最終的にU氏は理事長からの口頭注意のみ。一方、Aさんは復帰後も原因不明の高熱に襲われ、心身ともに限界に達してしまう。18年12月、Aさんは失意のうちに退団した。

> 失意の退団から1年以上が経った20年、Aさんが立ち上がる。精神的苦痛を受けたとして、劇団に対し、慰謝料請求を行ったのだ。

「法廷で宝塚のブラック労働の実態を明らかにする構えでしたが、劇団は即座に謝罪するとともに約500万円の見舞金を払った。これは演出助手3年目の年収の2倍近い額です。和解合意書で、劇団は2度とハラスメント案件が発生しないよう安全配慮義務を尽くすと誓約。また、劇団の求めで第三者に口外しない条項も入った。ただ、その後、劇団が実行した“働き方改革”といえば、演出助手の出退勤の管理にタイムカードを導入したことぐらいでした」(同前)

 U氏は22年に退団。その後も阪急グループの公演を主戦場に演出家を続けており、現在は文化庁の支援でフランスに留学中だ。

 U氏にパワハラについて尋ねると「事実と異なる点が多くありますが、きちんと確認の上でご本人からの声があれば真摯に伺い、誠意をつくし対応したいと考えております」と返答があった。劇団は「回答は差し控える」とのことだった。

 他方、Aさんに取材を申し込むと過重労働やU氏のパワハラ、劇団に慰謝料請求を行った事実を認めた。そのうえで、劇団の対応をこう批判した。

「Aさんの死は劇団が私に誓った安全配慮義務の違反に他なりません。今回、劇団が約束を破ったから事実をお話しすることにしました。身体と心を犠牲に仕事をしている劇団員の切実さをマネジメント側は理解していない。在団中はいくらU氏のパワハラを訴えても聞く耳を持たなかったのに、弁護士を通して慰謝料を請求すれば、簡単に謝罪も支払いもする。訴訟やリークが怖いだけなのかと、不信感が残っていました」

 冒頭の手紙の送り主は助手Aさんだという。

「イジメがあったかどうかだけを取り上げて調査しても再発防止にはならない。過去のハラスメント事案まで遡って調査し労務環境を見直すべきです。当時から私以外にもハラスメントに苦しむ劇団員が数多くいました。同期の1人は入団した16年に突然失踪し今も連絡がつかない。私が体験したことは氷山の一角に過ぎません」