■表と裏のリストラを使い分ける

ソニーは二〇〇〇年代に入って頻繁に早期退職募集を実施している。構造改革に着手した
〇三年の早期退職を皮切りに、リーマンショック後の〇九年春には約九百人、一〇年秋の
早期退職募集では四十から五十四歳に最大加算金五十四カ月分という好条件を提示し、
約四百人の社員がリストラされた。

ここまでの話であれば、さして驚くものではない。しかしソニーでは、世間に知られない
形で、いまも日常的にリストラを断行し続けているというのだ。早期退職優遇制度を発令
した人員削減が表のリストラとするならば、これはいわば裏のリストラだ。

ソニーの人事部のもとには、各部署で不要人材との評価を下された社員のリストが集まって
くる。戦力にならないローパフォーマーや精神的・肉体的な問題を抱える社員、つまりは
各部署の厄介者扱いの社員たち―こうした人物は、常時数百人規模に達するという。それら
の社員が送り込まれるのが人事部直轄の「キャリア開発室」、社内の「リストラ部屋」だ。
彼らには、「SK」「HS」「SYK」「SYS」「SYT」「TS」との英字の略語が
つけられる。「SK=再教育候補」「HS=秘書庶務候補」「SYK=社内休職」「SYS
=社外出向候補」「SYT=職種転換候補」「TS=単純作業」という意味である。ランク
は違えど、全てリストラ対象者である。

キャリア開発室での仕事は主に以下の三つに集約される。1、社内・社外の仕事を自分で
見つけること。2、自己啓発(スキルアップ)に励むこと。3、空いている時間は他の部署を
応援すること。

部下をキャリア開発室に送り込んだある管理職は、実態をこう語る。「1は"早く辞めてよ"、
2は"給料もらって遊ぶのか"と同義語。1と2は退職準備と見られるため、率先してやる人は
いません。ほとんどが3に群がりますが、これは社内に蓄積したデータ類をひたすらPDF化
する仕事、アルバイトがやる単純作業です」。