>>390

「リツ。たまに思うんや。私の左耳はなんのためについとる? 聞こえんのに」
「……かわいいからついてるんやないの? スズメの耳はかわいい形や」
「えっ?」

 リツのものとは思えない言葉に、スズメは目を丸くしてリツを見る。

「誰だ?」
鋭い口調でスズメが問う
「え?」
「スズメの耳はかわいいからついとる、なんて、洒落たことリツが言うわけがない。考えつくわけがない
 誰かのパクリや。受け売りや。誰だ?」

 リツは軽く咳払いをする。スズメの野性の勘をなめていたようだ
 リツはスズメに向き直り、しぶしぶ口にする

「ブッチャー」
「ああ……ブッチャー?」
「あいつは、ブッチャーのくせに、心は細やかだ」
「なんとなく気づいてた」
「あ、気づいてたついでに言わせてもらっていいですか? ぜひ、もう一個気づいてやってほしいことがある。俺は
昔から思っている。あいつは、スズメに気があるんやないかって。小さい頃からあの執拗なイジメ方……あれは」
「リツ」

 スズメは重々しい口調でリツの名前を呼んだ

「リツは、ブッチャーと親友じゃないのか?」
「親友だよ。いっそ、きっと、唯一の」
「親友なのに、好きな子も打ち明けてもらってないのか」

 ブッチャーが自分を好きだなんて、スズメは欠片も信じていなかった
 それよりも、リツの唯一の親友が親友じゃないかもしれない問題の方が気になる←www

「……親友じゃないのかな……ブッチャー」

 自信なげに呟くリツの肩を、スズメはぽんと叩いた

「リツ、大丈夫だ。リツには、フランソワが……」
「みなまで言うな!」←wwww
「了解……しました」

北川悦吏子.半分、青い。 上(文春文庫)(Kindleの位置No.1276-1280).文藝春秋.Kindle版.