■(1)楊海英『チベットに舞う日本刀−モンゴル騎兵の現代史』(文芸春秋・1850円+税)

 テーマは知られざるモンゴル近現代史である。20世紀前半のモンゴルには、北と南から2つの
近代的勢力が迫っていた。北はソ連、南は日本である。
 そして南の満洲国には、モンゴル人の騎兵を養成する学校があった。昭和20年までの卒業生は
1200人超。幼少時からの巧みな馬術を基盤に、軍刀操法をはじめ日本陸軍流の近代戦術をたたき
込まれたモンゴルのエリート青年たちは、満洲国騎兵の中核をなした。民族主義者でもあった彼らの
夢は、北と南が統一された独立国家モンゴルをつくること。日本とは、利害がうまく一致した。著者は、
この関係を「相思相愛」と表現する。
 こうして生まれた近代的「モンゴル騎兵」だが、日本の敗戦とともに中国共産党の雇い兵となり、
チベット侵略の先兵となることを強いられる。タイトルは、この意味である。日本刀を振り回し、戦闘では
無類の強さを発揮した彼らだったが、やがて文化大革命で右派危険分子として根こそぎ粛清されるに
至る。ユーラシア最強の騎兵軍団は、こうして歴史の陰に消え去った。
 著者は内モンゴル出身、中国国籍から日本に帰化した静岡大教授。大国に翻弄され続けた近現代
モンゴルの悲劇を詳細に描きながら、少しもいじけたところがない。どころか、読後感は草原を渡る風
のように爽快。著者は文革でのモンゴル人ジェノサイドを描いた『墓標なき草原』(上下、岩波書店)で
一度司馬遼太郎賞を受けているが、この本でもう一度受けてもいいと思う。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/bizskills/snk20141228512.html