京都駅からJR湖西線で約20分。おごと温泉駅(大津市)から琵琶湖を目指して駅前の道を下ると、交差した国道161号の両側に趣ある旅館が点在しているのが見えてくる。

おごと温泉の歴史は古く、一説には天台宗(総本山・延暦寺、同市)を開いた最澄ゆかりの霊泉と伝わる。長らくひなびた秘湯だったが、戦後になり温泉街として発展した。
 一時は年間の利用客が40万人超に伸びたが、バブルの終焉(しゅうえん)でレジャー産業が冬の時代を迎えると37万人まで落ち込んだ。一時期は24軒あった旅館も半減。
こうした中、危機感を抱いた若手経営者が立ち上がり、家族連れや女性客へのアピールに動いて以来、近江牛や地酒を使った手料理の充実などに知恵を絞ってきた。

現在は関西でも指折りの温泉地として知られるが、「認知度はまだまだ全国レベルにない。旅の目的地として選ばれるには周辺エリア全体の魅力を高めないと」。旅館9軒で
つくるおごと温泉旅館協同組合の金子博美理事長は表情を引き締める。おごと温泉観光協会長も兼ねた理事長に就任した5年前、打ち出したのが「ハブ温泉」戦略だ。

ハブは拠点を意味し、観光や修学旅行以外にもビジネスやスポーツなど幅広い利用を想定。さまざまな目的の人々が集う宿泊拠点を目指し、滋賀だけでなく京都の需要を
取り込む狙いもある。各旅館の特徴やサービスを生かすため、組合としてはターゲット層をあえて選ばないという。

その代わり、エリアの魅力を発信し、おごと温泉を知るきっかけとなるような多彩なイベントに力を入れる。周辺の史跡や湖畔の近江八景などを巡るウオーキングは
開催5回を数え、スポーツや文化を通じた観光振興を評価する国の「スポーツ文化ツーリズムアワード2017」で大賞に次ぐ賞をこのほど受けた。これまでの地道な取り組みも
手伝い、右肩上がりの利用客は17年に過去最多の60万人を記録した。

最近は比叡山から比良山地を横断するトレイル(山道)整備の協議に参画。山歩きを楽しむ人への知名度アップを狙う。
 個人の趣味や好みが多様化する現代。金子理事長は「あらゆる旅に対応しながら、じわじわと滋賀やおごとの良さを広めていきたい」と意気込む。