宦官とは何か、というのを考えるためには、「後宮」的な組織を持つ他の文化圏との比較が
有用だろう。

ここでは、中華世界、日本、モンゴルを比較してみる。

まず、日本の後宮。
これは御所の後宮組織でも江戸幕府の大奥でもそうなのだが、天皇なり将軍なりの
正妻あるいは生母を頂点とする女性の自治組織で、基本的に男に口出しはさせない。
男女が別々の自治組織を作るというのは、たぶん日本の古くからの土俗的な基層文化で、
私がフィールド調査をしたことがある九州の某地方でも、部落(広義)の寄り合いに
男性の寄り合いと女性の寄り合いが別組織で行われていた。

次にモンゴル。
これは、モンゴル帝室の「オルド」に典型を見ることができる。
「オルド」は遊牧組織そのものであり、組織の頂点に正妻がおり、
その配下には君主の妻妾だけではなく、男性の牧民労働者や遊牧騎士軍人まで含まれる。
君主の遊牧組織が肥大すると、なんと「正妻」の数を増やして「オルド」を分割し、
遊牧組織としての適正な規模を維持する。

こうしてみると、中華世界における後宮の特徴がはっきりと見えてくる。
・女性は男性の支配下に置き女性の自立した自治は許さない
・後宮には配偶者たる君主とその未成年の子息以外の男性の存在を許さない
この条件を満たすため、一般家庭よりはるかに肥大化した君主の後宮を維持するためには
「男性ではない男性」が不可欠となる。
この目的のための「女性の群を管理する」ための「男性ではない男性」が宦官であり、
彼らは君主の女性支配の代理執行者たる一種の「君主の奴隷」身分である。