フランソワ・オゾン監督の新作。『スイミング・プール』等で同監督とタッグを組んだエマニュエル・ベルンエイムの自伝的小説が原作。

小説家のエマニュエル(ソフィー・マルソー)は、85歳の父アンドレ(アンドレ・デュソリエ)が脳卒中で倒れたと聞き、病院に駆けつける。アンドレは一命を取り留め意識も回復。一安心と思ったその矢先、父が娘に託した望みは”自分の人生を終わらせる”事だった…。

尊厳死。
我が国の定義において尊厳死とは延命治療の停止を指し、人為的に死を齎すのは安楽死とするのが一般的らしい。

このレビューでは字幕に準拠して尊厳死としますが、いずれにせよ人生の幕を閉じたいと願う父と家族が織りなすヒューマンドラマです。家族の誰かが冗談や弱音などでは無く本気、且つ社会のシステムに則った死を希望したならどうする?どうなる?

実はオゾン監督の作品はこれが初めまして。
かなり好きなタイプの映画でした。

アンドレの意思はめちゃくちゃ硬いです。周囲がどう思おうが意地でも死にたい。どう思ってるか気にしてすらいないのかも。言って見れば自己中なんですよね。

そんな父の性分を知ってるからか、次第に受け入れざるを得なくなっていく娘たち。そりゃ複雑ですよ。日程が決まると逆に元気になる父を前にして喜べばいいのか悲しめばいいのか…

ソフィー・マルソーは勿論、妹のパスカルを演じたジェラルディン・ペラス、疎遠な母クロード役のシャーロット・ランプリングらキャストは皆素晴らしい演技でとても引き込まれます。

が、僕的MVPはあんだけワガママな父親をチャーミング且つユーモラスに演じた名優アンドレ・デュソリエ。なんでだろう、見てるとどんどん好きになっちゃう。誰か観た人、分かって(笑)

そんな本作、重いテーマを扱ってはいても割と観やすい作品に感じました。お涙頂戴的な湿っぽさもほぼありませんし、なんなら笑みが溢れるまである味わい深い映画。

ちなみに、僕は消えて無くなりたいと思った事はあっても、死にたいと思った事は一度たりともありません。

ですが、死を旅立ちと捉えるならば、自ら踏み出すに至る心情はある程度理解します。自分では絶対選択しませんし、誰かにしてほしくもないですけどね。