原題は「TOUT S'EST BIEN PASSÉ」なので、現在完了形。
ニュアンスが異なりますね。

小説家のマニュ(エマニュエルの略称。ソフィー・マルソー扮演)の父アンドレ(アンドレ・デュソリエ)が突然の脳卒中で倒れてしまう。
一命はとりとめたが、身体の自由が利かなくなってしまう。
プライドの高いアンドレはその現実を受け入れることは出来ず、威厳のあるうちに人生を終わらせたいと懇願する。
父の願いを無視することはできないマニュは異母妹パスカル(ジェラルディーヌ・ペラス)とともに、アンドレの願いを叶えるべく奔走する・・・

といったところから始まる物語で、尊厳死を願う父に困惑する家族の様子を描くヒューマンドラマながら、どことなく悲壮感がありません。

父アンドレは卒中直後の全くの不自由状態から恢復し、普通だったら「この調子で頑張って生きていくか」と思い直すどころか、かえって「孫の演奏会を聴けるようになった。聴いたら死ぬ」と言って憚らない。
なんだか困った爺さんだ。

ひとことに「尊厳死」と言っても、フランス国内でも自由に許可されているわけでもなく、さまざまな手続きを経ないと、法律で処罰されてしまいます。

で、このあたりになると、ユーモアまじりのヒューマンドラマというよりも、なんだかラブコメみたいに見えてきます。

ラブコメ=愛するひとと一緒になるためにさまざまな障壁を超えていく、というスタイルの、「愛するひとと一緒になる」の部分が「尊厳死を迎える」に置き換えたみたいな感じ。

原作はエマニュエル・ベルンエイムの実体験のようなのだが、この女性は『スイミング・プール』『ふたりの5つの分かれ路』『Ricky リッキー』の脚本家。
フランソワ・オゾン監督は、彼女の経験を、父の死に巻き込まれた家族の物語として捉えたのではなく、アンドレの死に方にある種の憧れのようなものを抱いたのではありますまいか。
いわく、「しあわせな死に方」みたいな感じで。

なので、映画の最後の台詞が、スイスの協会の女性職員(ハンナ・シグラ)からの「すべて順調でした(原題)」。
万事快調、すべて順調。
それはある種、お祝いの言葉でもありますから。