総合的学際研究の時代の復活:「倫理学ノート」清水幾太郎 - 道端鈴成
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新古典派の経済学は、労働価値説を越えて需要供給の観点から価値をとらえることを可能にする限界革命を
経て成立した。メンガーやジェヴォンズが導入した限界効用(Marginal Utility)の考えは、当時の心理学に
おける精神物理学を参照したものだった。限界効用逓減の法則などは、感覚量に関するウェーバー・フェヒナーの
法則と同型の内容となっている。エッジワースのように効用の測定に向けて心理学を援用しようとした経済学
者もいる。しかし、その後の経済学は、パレートなどの定式化にしたがい、心理量ではなく選択結果を参照し
てなりたつようにモデル化を行うようになる。サミュエルソンなどが、この流れで新古典派の経済学を数学的に
モデル化していく。合理的な選択を前提とした数学的モデルによる専門化した経済学の誕生である。この方向が
20世紀の経済学の主流となる。こうした流れに変化のきざしが生じたのは、20世紀の終わりになってからである。
行動経済学では、実際の人間の選択を心理学的な理論を参照に実験的に研究を試み、神経経済学など神経科学と
経済行動との関連も研究のテーマとなった。19世紀末に試みられた心理学との関連づけが、20世紀の専門化の
時代をはさんで、20世紀末から21世紀になって再びより本格的に探求されるようになったのである。(この間の
事情については、例えば次の論文が分かりやすい。THE ROAD NOT TAKEN: HOW PSYCHOLOGY WAS REMOVED FROM ECONOMICS, AND HOW IT MIGHT BE BROUGHT BACK, Luigino Bruni and Robert
Sugden, The Economic Journal,2007, 117, 146-173.)また、経済学者が効用という扱いやすい概念だけを
数学的定式化にのりやすいようにして拝借した功利主義者が問題とした幸福などという問題も経済学の本流に
復帰しつつある(例えば、"Economics and Happiness: Framing the Analysis"などを参照。)。