上で挙げたミネルヴァ日本評伝選の『浦上玉堂』を購入したので、まださわりを読んだだけですがご紹介を。
玉堂の絵画に、彼が得意とした琴の、音楽の影響があろうというのは卓見でしょう。
文人画の祖である王維が音楽に通じていたことも、意識していたものでしょうか。

著者は昭和21年生まれですが、冒頭からボストニアン、ニューヨーカー、カルチェ・ラタン、モーツァルト、
ゴッホと「洋物」の知識が披露されます。
これらは自然に出て来るのに、玉堂と関連しない東洋史・日本史の知識が文章として血肉になっていないのは、
著者の世代を象徴するものでしょう。
著者自身が「美術館は西洋画を収蔵するところであって、日本画は対象外であった」という事実を指摘されて
いるのですが、そうした「関心は専ら西洋」を著者自身も体現しているのは皮肉です。

コピーと写真の意義について述べた節もあります。
ただ、その是非はさておき、というより明らかに有意義なのですが、話題としての出現が唐突で、内容のレベ
ルが低いという訳ではなく、展開の仕方がアマチュア向けの郷土誌の様です。
玉堂の伝記の構成として見るなら蛇足と言わないまでも、頭と同時に腹が出たような印象を受けました。
おそらく、研究者以上にアマチュアの郷土史愛好者を本書の読者として想定されたためかと。