平間洋一 歴史・戦略・安全保障研究室
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幻の書『露日海戦史』に記された日露戦争の真実
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 一方、首都のサンクトペテルスブルグでは、1903年にロシア海軍軍務局の対日作戦計画担当者ブルシロフ中佐が、
極東で「絶対優位権ヲ確立セント欲ス」るならば、「須ク日本ヲ撃破シ」し、「艦隊保持権ヲ喪失セシメ」なければならない。
現在は日本海軍が優勢であるが、2年後には日本の戦艦6隻に対して13隻、装甲巡洋艦も6隻に対して5隻となるので、
当面は「縦令、多大ノ譲歩」をしても対立を回避するのが「得策」である。「既ニ予メ二カ年後ヲ以テ対日宣言ヲ布告スル
コトヲ決シタル以上」、海軍軍備については「今後二カ年ヲ経テ日本ニ対シ宣戦スルノ堅キ決心ヲ以テ、不撓不屈戦備ヲ
修メ」るべきである。陸軍については「朝鮮ヲ侵略シ得ルニアリ」、それには2年後までにシベリア鉄道を完成させる必要が
ある。外務省は開戦時までに有利な国際関係を構築すべく努力すべきである。

 また、極東において優位を確立するには戦争で「日本人ヲ撃破スルノミニテハ不十分」で、「更ニ之ヲ殲滅セサル」べか
らずとの強硬な覚書を提出したが、この覚書で注目されるのが、何時、どのような会議で決められたのかは不明であるが、
「既ニ予メ二カ年後ヲ以テ対日宣言ヲ布告スルコトヲ決シタル以上」と、1901年には対日戦争を決定していたと思われる
1行である。この覚書に軍務局長ロジェストウェンスキー少将(のち中将、バルチック艦隊司令長官)は、我々の目的は
日本を殲滅するのではなく、「単ニ朝鮮ヲ我領土ニ併合スルニアリ」。従って海軍兵力も日本海軍を凌駕する必要はなく、
「日本軍ヲ朝鮮カラ駆逐セントスル陸軍ノ努力ヲ軽減スレバ足レリ」。日本との戦争はどのような場合でも、「吾人ノ利益タル
能ハザル」ものである。日本との戦争は欧米列強との「新戦争ヲ誘発スル」ので避けなければならないと反対していた。