――「数字に興味はないです。」
声の主は現在、全国リーディングのトップに立つ川田将雅騎手。
「関東を一人で背負って立つあの人と、僕の一勝とでは重みが全く違う。」と見せかけの数字に価値はないことを強調する。
あの人とは、もちろん関東の名手′ヒ崎圭太。川田にとっては良き兄貴分だ。
「これで満足しているようでは、あの人にとって僕は、いつまでたっても弟分。」
目下の充実ぶりにも慢心はない。目指すものは遥か上だ。

二歳女王ダノンファンタジーで参戦するクラシック第一弾・桜花賞にも同様の姿勢だ。
一強ムードが囁かれるが「まずはスタートまで無事にいけたら。ゴールの瞬間まで何一つわからない。」
とあくまでも慎重な姿勢を崩さない。
――大一番勝利へのキーとなるのは何か?
「圭太さんです。」
間髪入れずに答えが返ってくる。
「レースプランを立てる上で、圭太さんの存在は最も重要なファクター。あの人なら必ず、何かやってきますよ!」と予言
名手を警戒する発言とは裏腹に、表情には兄貴分との腕比べを待ちきれない様子が滲み出ていた。

――4月7日15時40分、運命のゲートイン
レッドアステル戸崎が、大きな壁となって立ちはだかる。