こうして、せっかく自国の伝統を生かした漢字ハングル混じり文という、
独特な書き言葉表現の形が出来たのに、戦後は漢字を廃止して表音文字のハングルだけにしてしまった。

そのため、韓国でも北朝鮮でも、書き言葉独自の豊かな表現の大部分を失ってしまった。
その代わりに促進されたのは、口語中心の言文一致政策である。
そうして、文語の中に脈々と生きていた、含蓄に富んだ漢字語表現の多くが死語と化していったのである。

北朝鮮は韓国よりも極端である。

例えば、北朝鮮の新聞を読んでいて
「たくさんの水が溢れる」
といった表現があって不思議に思った事があった。
これは、「洪水」という漢語をハングルの固有語に言い換えた言葉だったのである。

戦後の韓国・北朝鮮で漢字が廃止された事によって弊害の中でも、最も大きなものは、
日常的にあまり使われない漢語、しかし、物事を考えるには非常に重要な語彙が、
一般の人々の側から次第に失われた事である。