浅田彰 …そもそも 、自然科学的な説明に関してさえ 、旧世代の人間としてはどうしても
原理から演繹して説明してほしいと思うので 、すべてがフラットなデータの集積に還元さ
れるだけでは説明された気にならないんですよ 。笑い話のようだけれど 、昨年 、山本太郎
が国会で安保法案の可決に抵抗すべくひとりで牛歩戦術を行ったら 、それが話題になって
「牛 」という言葉のツイッター上の出現回数が急上昇した結果 、ツイッター分析と連動
する自動株取引アルゴリズムが作動してしまったためか 、牛丼の松屋フーズの株価が突然
高騰したという出来事がありました 。かつては 、計量経済学でも 、一応は経済理論
に基づく因果関係のネットワークを連立方程式モデルで定式化し 、統計データからパラメ
ータを推定したうえで 、予測値を計算していた 。背後にある構造の理解に基づく説明と
予測を目指していたわけです 。しかし 、それはなかなかうまくいかず 、むしろ 、さまざま
なデ ータの時系列を追い 、それらの統計的な相関を見出して予測に応用したほうが手っ取り
早いということになる 。たとえば 、特定の言葉の使用頻度が上がったら 、特定の株価が
上がる確率が高い 、と 。 「牛 」と牛丼屋ならまだ因果関係がはっきり説明できるほうで 、
一般的には因果関係はわからないけれど 、とにかく統計的相関が高いというので割り切って
しまうわけです 。こういうのは 「了解 」どころか 「説明 」ですらないのではないか 。そう
いう懐疑は 、しかし 、時代遅れの雑音とみなされ 、自動株取引アルゴリズムはひたすらに
高速化していく 。マイクロセカンド単位で勝負する取引になっていくので 、株式取引所の
コンピューターにできるだけ近いところから大容量の回線でアクセスすることが求められる
ほどです 。しかし 、その結果 、時にある種のポジティヴ ・フィードバックによる暴走が生じ
て 、突然あっという間に株価が暴落したりする 。なぜそうなったかは結局よくわからない 。
こういう状況を見ていると 、動物的な反応速度が上がっただけで 、知能が進歩したというよ
り 、みんながバカになっていっているような気さえする 。