園芸民が異世界転生したらどうするよ?
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園芸民の得意分野で中世ヨーロッパ風の異世界をどう生き抜くか?
どう内政チートするか議論しあうスレです
ただしチートとジャガイモは禁止な >>39
そんなある日、山田は領内の畑で野菜をチェックしている不審な男を見とがめた。
領主として職務質問したところ、彼は王都からやってきた宮廷の総料理長であった。
領館で山田領の野菜を試食したぐるぐるマユ毛の若い総料理長は、伝統野菜の
良い意味で癖の強い風味、とりたての自然な甘み、自分が見たことのない魔力属性を
高く評価した。
「王都より天才料理人来たる!」の報を聞きつけて集まった山田の友人達によって、
いつのまにか山田領の野菜を使った宮廷料理の試食会が開催されることになっていた
翌日の試食会において、供された料理の3皿目を完食した山田は
「う・ま・いっ・ぞっおぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」と叫ぶと同時に
全身の魔力が暴走し、服がすべてはじけ飛んで全裸になるハプニングを披露した。
女性達はみな見て見ぬふりをしていたが、ロリっ娘召喚師だけはガン見、
もとい白い目で見ていた。
料理長は、いままでにこれほどの料理が作れたことは無いと語り、
必ずや王宮に野菜を届けてくれるよう山田と約束して固く耳を握り合い、
王都へと戻っていった。
次回「起業準備その6」
次からは配達員探し。 ここでぶっちゃけて言うと、山田が想定していたのは現代日本で言えばバイク便である。
小回りのきく移動手段によってノンストップで王宮まで野菜を運び、鮮度が落ちない
うちに届ける。大量輸送は望めなかったが、産地直送朝採りフレッシュのうちに
調理を済ましておけば、あとは業務用魔蔵庫に収納して長期保存しておけば良い。
定期的に作りためておいて、宮中晩餐会に供することは十分に可能であった。
だがこの場合、高速移動のスキルを有する配達員の存在が必須である。
輸送中の盗賊やモンスターの襲撃を考慮に入れれば、攻撃魔法も使えたほうが望ましい。
だが飛翔系モンスターを使役できたり、飛翔呪文が使えるような高位の魔術師の
ほとんどは帝都で王宮関係の仕事に従事していたし、考えているような都合の良い人材が
本当に集まるかどうかは不確定だった。山田は最悪の場合、自領で1から人材を
育てることも考えていた。
次回「起業準備その7」
求人広告を出します。 もっと昔であれば、山田がこのように頭を悩ませる必要はなかっただろう。
都市と都市の間を一瞬で移動できる、使い捨てのマジックアイテムが存在していたからだ。
しかしそのアイテムの錬金素材となるモンスターは、この世界では冒険者達の乱獲によって
絶滅しかかっていた。現在では素材モンスターはワーシントン条約の附属書Tに
記載されており、マジックアイテムも学術研究目的を除いて入手できなくなっていた。
余談になるが、のちに山田はそのモンスターの人工繁殖に成功し、王国公認の
シリアルナンバー入りマジックアイテムを再流通させるに至る。
その売却益によってモンスターの生息地を買い取り、保護区を設立し、
密猟者を密猟対策レンジャーに転職させるという偉業をなしとげる。
しかしその件に関しては園芸と無関係な物語になるためここでは省略する。
閑話休題。
ひとまず山田は、冒険者ギルドに依頼して王国領邦全域に、求人の張り紙を出すことにした。
次回「起業準備その8」
求人結果です。 勇者のパーティにいるような瞬間移動呪文使いや、竜騎士から転職した飛竜に乗れる
運び屋が応募してくれれば、この件は一気に解決したことだろう。しかし王宮でも数える
ほどしかいないレアな呪文使いや、あらゆる異世界を探しても2人いるかどうかという
変態職が見つかることは期待すらしていなかった。
仮に応募があったとしても、配送員が一人だけのワンオペであったら、退職された時点で
業務が崩壊してしまう。
現実的な線としては走鳥乗りか、二輪魔動車の免許保持者を雇用してまんまバイク便。
あるいは三倍速移動やニンジャ走りで飛脚便を試験的に運用して人材が育つまでの
つなぎにする。それが山田の想定であった。
しかし実際に求人してみると、平民には通常は手に入れることができない
黒魔術使用免罪符が取得できるという雇用条件が功を奏し、表の職種では就業が難しい
異端スキル所有者から多数の応募があった。書類選考を経て山田が面接し、容貌、性格、
胸囲などを参考にして、地球人であれば十代に相当する外見の女性3名の採用を決定した。
次回「起業準備その9」
新入社員の研修です。 王国労働安全法では、雇い入れ時に
(1)就業時の外敵の種類・危険性と対応についての教育
(2)事故時等に際しての緊急蘇生法の教習(山田領の場合は模造の「不死鳥の尾」を使用)
が義務付けられているが、これらは一日あれば覚えられる内容であった。
問題は実技だったので、山田は採用者に対して独自の実技研修を課した。
まず各自の技能スキルをそのまま維持した状態で、配達員に転職させた。
次に領内で実際に配達を実施し、さらにパワーレベリングによってレベル上昇を図った。
女性であるため泣き出したり、逃げ出したりすることを山田は危惧したが、全員が命がけの
雇い入れ時研修を乗り越え、研修修了時には山田が驚くほど職業レベルが上昇していた。
また彼女達は、配達時に王都で山田温泉リゾートを宣伝することを提案し、山田は快諾した。
山田は自分の故郷での宣伝方法であると説明して、彼女達に歌のレッスンと踊りの振り付け、
さらに衣装・・ではなく制服の作成、演出および音響の魔法構築を発注した。
どこに行くのか山田。
次回「起業準備その10」
いよいよ大詰め。 また、山田は研修実施と平行し、配達時に通過する予定の各領の領主を順番に
山田リゾートに招待し、根回しと接待とハニートラップを完了した。
各領には領主の他にも小物、ではなく地域に密着した実力者が多数存在していたが、
貧・・収入に制限のある山田には全員を接待することは不可能だったため、優先順位の
決定に非常に頭を悩ませることになった。頑張れ家令。回復ポーション飲むか?
こうして山田デリバリー商会はようやく営業できる準備が整った。
その業態は王都では斬新なものだったが、もし現代日本人が見たとすれば、そうは
思わなかったことだろう。なぜならば先人のパクリ、いやオマージュであることが
一目瞭然だったからだ。
そしてついに、営業初日を迎えた。
三人娘の初フライトの日である。
次回「魔女の配達便」
「行きます!」「い、行きます」「行くわよ!」 <幕間1>
「こちら領館管制室。魔導通信感度良好。いや教官でも商会長でもない、社長と呼べ。
そうそう、ん〜〜良い響きだ。飛行状況を報告せよ。すっごく綺麗?
ああ、雲海(うんかい)と言うんだ。見渡すかぎり薄紅色?ちょうど朝日が登る時間帯
だからな。嬢ちゃんの新型箒(ほうき)と、お前達の実力があって初めて見られる風景だ。
この世界で見たことのある奴はほとんどいないんじゃないか?
索敵魔法と「風の加護」はそのまま展開を維持。進行方向は魔導羅針盤の指示通り。
羅針盤が光るまで高度はそのまま、巡航速度を保て。
いや本気出さないで。チャック・イェーガーにならなくていいから。安全優先で。
野菜の鮮度は大事だが、お前達より大事な野菜は無いから。
その速度なら公演・・じゃなくて宣伝を済ましてからでも暗くなる前に戻れるな。
王都が見えてきたらまた連絡しろ。通信を終わる。」 <幕間2>
「うう、肩こった・・次の連絡があるまで管制監視はメイドのミヤゲに任せる。
え何? うげ、あれだけの通信で魔力費そんなにかかるの?
そりゃ王宮と大貴族しか使ってないわけだ・・
これで商売がうまくいかなかったら、貴族達からの出資金が返せなくて破産だな・・。
いや今は心配しなくていい。俺の取り分はいいから、頑張ってくれた皆への報奨を優先しろ。
そうだ嬢ちゃんにもだ。開発費以外はいらないと言うだろうが受け取らせろ。
あいつは自分の価値が全然わかってない。企業の要は社長でなく技術者だ。
あーそれとだな、んーごほん。
今回の一番の功労者は家令のお前である。よって特別報奨と、30日間の特別有給休暇を
与える。わが領の温泉リゾートで酒池肉り・・接待用無料サービスの無制限利用も許可する。
存分に満喫するがよい。・・あれ、どうしたの?
先に療術室?・・ちょ、ここで倒れないで!」 王宮からの管制で王都結界内に進入した配達員達は、衛兵の誘導により王宮屋上の
飛竜発着場に着陸。興奮状態の総料理長が駐竜場で待機しており、配達員達から直接
空輸野菜の箱を受け取った。
そこまでは順調だったが、その後の広報活動において予期せぬ事態が発生した。
山田は、従来の「邪悪な黒魔女」のイメージを払拭すべく、配達員達の制服には
ファンシーでカラフルなデザインを選択した。具体的に言うと日曜朝の女児向けアニメの
主人公の服装を参考にした。
そうして用意された配達員達の制服姿は、山田の目にはごく普通のコスプレ美少女にすぎなかった。
しかし王都の住民にとって、それは文字通り異世界の装束だったのである。
彼女達の姿を見た人々は、東京都心に宇宙人が出現したかのような好奇心と恐怖の
混ざった表情になった。路上ゲリラライブ、ではなく山田リゾートの広報活動に
何事かと集まってきた王都民は、最初は恐る恐る遠巻きにして様子を眺めていた。
しかし彼女達が箒に乗って空中パフォーマンスを始めた時点で彼女達の正体に気づき、
騒然とした状態に陥った。
(続く) 「魔女だ!」と叫んで逃げ出す者、ひざまづいて神に祈り始める者、口をあけたまま
固まる者。あるいは「見えた・・」とつぶやいて赤い顔で鼻から血を流す若者。
念写を始める魔導士に、天啓に打たれて創作を始める吟遊詩人。
赤ん坊が泣き、羽毛竜が騒ぎ、愛玩獣が吠えた。
空飛ぶ美少女に道ゆく人がふりかえり、窓から人々が身を乗り出した。
運転手がよそ見をして魔動車事故が多発し、王都は大渋滞。
騎士団長に出世していた女騎士までもが交通整理に呼び出される始末。
もし入念な根回しを怠っていたら、責任者である山田は首をはねられ、
生き生首の刑に処せられていたことだろう。
山田領からは静養中だった家令のエンガワーが呼び出され、事後処理に走り回ることになった。
次回「その後の顛末」
すまん家令。家令?・・ああ大変だ!エンガワーが息をしていない!
誰か蘇生魔法を! だが、この騒動によって三人の配達員は王都では知らぬ者のいない存在となり、
王都円形劇場で広報活動をするほどの人気野菜配達となった。
また彼女達の勤務地である山田温泉リゾートへの旅行は、王都の貴族子弟に「聖地巡礼」
と呼ばれるようになり、山田領は貴族の保養地としての名声が高まった。
一方、王宮総料理長は空輸された野菜を使っていくつもの新しい料理を考案し、どの料理も
国王から激賞の言葉を賜った。総料理長は王都貴族達に「魔力の高い貴族にしか
食することのあたわぬ、まことの宮廷料理を創りし者」と賞され、平民からは
「奪衣の料理術士」と呼ばれ恐れられた。
空輸された野菜はほぼ全量が王宮への献上、および商会への出資貴族への販売にあてられたが
ごく一部は他の貴族達にも抽選で販売された。抽選会場には貴族達の代理人が多数
押しかけたが、ある貴族子弟は「なんとしても配達員とお話して握手がしたい」という
動機から、多数の人を雇って抽選会場に並ばせた。その行為は他の貴族達に顰蹙を買い、
しばらくして貴族子弟は何者からかの依頼を受けたアサシンギルドにより
蘇生のできない方法を使って暗殺された。
次回「エピローグ」
次で最後・・の前にちょっと脱線してみる。 剣と魔法の世界の害虫ってそうとう手強そうだな
こちらの世界なら1mmもないような指で潰せる虫も1cmくらいですごい羽音立てて飛んできそう <コラム>
三人の配達員は王都の大きなお友達、もとい貴族子弟達によって名付けられた
「赤炎の巨乳様、黄光の眼鏡ちゃん、青風のツインテ姫」(訳者注:原語ではそれらに
類似した意味の異世界スラング)という異名でよく知られている。
王国時代には彼女達を題材にした数多くの芸術作品が作成されており、特に卓上人物像に
おいて優れた作品が多い。また宮廷画家のベラケススが描いた彼女達の肖像画は、
のちの印象派の萌え絵に大きな影響を及ぼし、かのルーノアルもベラケススの色使いを
絶賛する書簡を遺している。 その後、山田が宮廷を訪れた際には貴族達から「配達員をもっと増員してほしい」と
いう要望がしばしば寄せられた。しかし山田は「魔女を集めて航空歩兵部隊を創り、
謀反をたくらんでいると思われたら嫌ですので」と言って断るのが常だった。
実際、その後も「卒業」などによって配達員が入れ替わることはあったが、人数は
3人以上になることはなかった。
が、たまたま横にいた帝国大使がその会話を聞き、魔女の軍事利用という概念が
帝国へと伝わって帝国航空魔女兵団が設立されるきっかけとなった。
魔女兵団の乙女達は、ゴーレム技術を利用した可変式人型決戦箒(ほうき)に騎乗し、
復活した魔王との最終決戦において山田と共に、闇が吠えて震えている帝都に
躍り出ることになるのだが、その物語は園芸とはこれっぽっちも関係ないため
このスレで語られる予定は無い。
このようにして山田は多忙な日々を送っていたが、その忙しさのために
身近な者に重大な変化がおきていることに、まだ気づいてはいなかった。
次回「治療法の無い病い」
植物ネタに戻してサクサク進めます。一転してシリアス&ハードなプロブレム。 >>54
朝起きてカーテンを開けると秋田犬ぐらいのナメクジがいて
ベランダの鉢植えを舐めている >>57
7メートルぐらいのコウガイビルがあらわれてナメクジ丸のみ
ま、まあ益蟲だしな、と思って引きつつ見ていたら
家から出てきた母ちゃんが悲鳴をあげてメラゾーマで焼き尽くした >>56
植物モンスターであるドライアドのナナが、不治の病であるモザイク病を発症した。
山田と出会う前に、すでに感染していたらしい。
この世界では死んでも蘇生が可能である。しかしその魔法は、死者の体を健康体に
回復させてから「ぼうけんのしょ」から死者の魂を召喚して蘇生させるという術式
だった。従って、「健康体に回復する」ということのできない老衰死、人狼・吸血鬼化、
あるいは持続性ウイルス感染症には意味をもたなかった。
モザイク病を発症した者は長い間苦しみ続け、しだいに衰弱して最終的には死を迎える
ことが多かった。そのため発症が確認された時点で安楽死を選択し、遺体は感染防止のため
焼却処分するのが常識とされていた。
だが山田は、ナナの場合は治療できるのではないかと考えた。ナナにはクローン姉妹が
存在するため、ウイルスに感染していない姉妹からクローン体を作成し、そこにナナの
魂を召喚すれば健康体に戻せると推測したのだ。
山田はナナの姉妹を探しに、ふたたび隣国を尋ねることにした。
次回「盆栽市への再訪」
ー だが、山田はそこで園芸の闇を見る。 耐病性の低いナナシリーズは生産中止。販売されたナナの姉妹達は貴族の玩具となって
全員がすでに死亡。現在生き残っているのはナナが最後。それが山田の知った事実だった。
量産園芸品種を本気で育てている趣味家は、山田以外に存在していなかったのだ。
何か方法は無いものかと樹木医を訪ねた山田は、過去に一度だけ、今は亡き大賢者が
モザイク病にかかった植物モンスターのウイルスフリー化に成功していることを知る。
それは選択浄化魔法によって全身のウイルス感染細胞をすべて分解消去、体内に
わずかに残っているウイルス未感染の幹細胞から全身を再生し、蘇生させるという
術式だった。だがその術式は極度に難しく、その後に挑戦した者は全員が失敗している。またドライアドでは試した例すら無い。
もし失敗すれば被術者の体は消滅し、ナナは永久に失われる。
チャンスは一度、ぶっつけ本番。山田は悩んだ末に心に決める。
次回「メリステム・クローン」
山田は今、誰も挑戦したことのない領域に挑む。 普通に面白そうだから書いてくれ
あと巨大魔スリップスと魔コナカイガ、魔ネジラミとの戦いとかも >>60
山田はナナの再生に失敗した。
幹細胞の抽出には成功した。しかしその後の魔力に乱れがあり、細胞がカルス化したのだ。
そこには手足も目鼻も無い、ただ増殖を続けるだけの崩れた細胞の塊があった。
だがカルスからでも植物体を再分化させることは可能である。山田はそれを試みた。
しかし再び魔力量の調整がうまくいかなかった。再生体は2体に分裂し、ナナの他に
メリクロン変異体であるナナ・ツーが生まれてしまったのである。二人は同じ記憶を
持ち、外見的にも頭のアホ毛の本数ぐらいしか差は無かったが、性格や行動に大差が
あり山田を悩ませることになった。
山田は走り回る二人を眺めながら、幹細胞はメリステムでなくステムセルなのだけれど
突っ込まないでほしいと思うのだった。
そんなある日、山田領に出入りする青年商人が使役しているドライアドの美女、
ハオルシアが失踪した。どうやら就眠中に何者かに連れ去られたらしい。
犯人は誰なのか。またその目的は。
次回「盗まれたハオルシア」
隣国の者曰く、わが国の価値基準では盗まれるほうが悪い。 山田は失踪したドライアドの特徴を尋ねた。
眼はややタレ目でまつ毛が長く、目元には泣きボクロのようなアントシアニン斑。
唇はふっくらしていて髪の毛は緑と鮮やかな黄色のメッシュ。株元はすらりと長く、
ウエストは細いが腰にはむっちりと澱粉が蓄積されており、胸にある2個の貯水球が
ゆっさゆっさ、たゆんたゆんしているという。
それを聞いた山田は、彼女と共通の特徴を持つ植物系モンスター達が、隣領の
園芸オークションに出品されているという情報に思い当たる。それらの特徴を持つ者は
いずれも領主であるチャイナー大公に高額で落札されているのだ。
もし隣領に連れ出されてしまえば、二度と彼女は取り戻せなくなる。
一刻の猶予もならない。山田は手分けをして捜索をはじめた。
次回「斑入りを集める大公」
「ねー、やまだー。『ちょすいきゅう』って、おおきいほうがえらいの?」
「一般的には好みの問題だな。だが塊根マニアは違うぞ。あいつらは貯水球の大小で
植物の値打ちを判断するから」 使い魔達からハオルシアに似た者、怪しい者の情報を知らせてもらい、魔女の配達員が
緊急救助用箒「雷鳥1号」でその都度飛んでいって確認した。しかしよく似た別株だったり、
ただの人食い魔獣遣いだったりした。手がかりがないまま時間が過ぎ、じれた山田は
双葉マークなのに自分で魔動車を運転して探しに出てしまった。
夜中になり、山田領のはずれの廃ダンジョンにちらついた明かりを目ざとく見つけた山田は
隠れ外套を使って忍び込んだ。するとハオルシアを含めた数株の斑入りがそこに集められ、
人相の悪い男達がどこかへの移動準備を始めていた。もはや応援を呼んでいる時間的余裕は無い。
ナナ達の護身用に魔動車に積んであった女児用魔杖、マハリクピーリカキュアエールを
使用して山田は魔法の戦士フラワーヤマリンに変身。誘拐団を倒しハオルシア達を救出した。
しかしその変身は山田にとって黒歴史だったため、異様なものを見てしまったハオルシアは
固く口止めをされ、救出劇に関してはその後も多く語られることはなかった。
そして間髪を入れずまた事件がおこる。お題をうけて大害虫である巨大魔スリップス、
図鑑記載名ミナミキイロアザミウ魔の大群が山田領の畑に襲来したのだ。
呪殺耐性を獲得した害虫に山田の呪術は通用せず、地球のトノサマバッタ大の虫が
口器で刺してくるため領民もうかつに近づけない。山田領の野菜危うし!
だがそこに現れたロリっ娘召喚士が不敵に笑う。
「ふはははは、どうやら久しぶりに我の出番のようだな山田っ!!!」
次回「紫の聖光」
「今回も私の錬金薬を撒いて退治してはどうでしょう」
「怖いからやめて。また人死にが出てしまう」 ロリっ娘召喚士が畑上空に展開した魔法陣から、地球の単位で波長405nmに発光ピークを
持つ紫色光が照射された。アザミウ魔には何の効果もない光だったが、その光は
アザミウ魔の天敵である魔ハナヒメカメムシを誘引召喚した。
アザミウ魔は次々とカメムシに捕食され、農業被害は終息を迎えた。
召喚士はこれからの農業は農薬でなく天敵防除だ!と言い、無い胸を張ってドヤ顔をした。
山田は無料で解決できてラッキー!と思ったが、嗜虐趣味を持つ召喚士の機嫌を取るため
くっ!領主である俺がお前のような小娘に頭を下げねばならぬとは!と思いっきり悔しそうな
顔をしておいた。だが、ちっちゃい足裏を舐めさせられるのにはさすがに閉口した。
次回「領民たち」
「なー、山田ぁー。あたいも髪の毛を斑入りにしたら、いい女になれるのかなぁ?」
「すべての植物は最初から美しい。美しいと思える人間がそこにいるかどうかの問題だ。
というか、髪の毛を脱色すると葉緑体が痛むからやめなさい」 山田領の畑の復旧とさらなる開拓は進んでいた。山田には他の貴族達のように
自分で土魔法を使って土木工事をする力量は無かったので、領民の力を借りて
少しずつ灌漑水路や防衛用食獣植物林の整備をしていた。
王都の広報活動でのグッズ独占販売権を国王に献上し、代わりに山田領から収める税金を
少し減額してもらって開拓費に充てた。
領民には山田リゾートのバイキングの食べ残・・余剰食品を使用した弁当と、
現代日本であれば最低賃金の10分の1・・もとい、気持ちだけはこめた給金で
働いてもらったのだが、前領主の強制労役しか知らなかった領民からは神のごとく
崇められ、領主としての人気は昇竜上りであった。
ついには自分の初夜権(実在しました。詳しくはググれ)を領主様に献上したいという
若い娘までが現れた。さあどうする山田。
次回「モテ期到来」
とうとう魔法使いを卒業か。山田の返答はいかに。 山田は応援に感謝しつつ娘の手をとった。そして
頬を染め、うるんだ眼で山田を見つめる娘の耳にささやいた。
「ありがとう・・僕は君の気持ちを受け入れようと思う。
でも君の ’はじめて’ は、君が本当に愛する男性を見つけた時に捧げるべきものだ。
君から受け取るのは気持ちだけでいい。僕はそれを一生大切にして生きていこう」
そう言って、オークに似た娘の申し出を辞退した。
その話が領内に伝わると、山田の株はますます上昇し、領内の視察のたびに
ゴブリンに似た娘やミノタウロスに似た娘も山田に熱い視線を送るのだった。
そんなある日、家令のエンガワが深刻な顔で領主執務室に現れた。
「ご領主様、私事で申し訳ないのですが、ご相談したいことがあるのです・・」
次回「倒れた母親」
いつまでも あると思うな 親と花。 家令のエンガワの母親は、夫が古龍に丸かじりされてからは一人でエンガワと
その3人の弟妹を育てあげた女傑であった。しかしその苦労がたたったのか、最近に
なって地球で言うところの自己免疫疾患のような難病にかかってしまった。
特殊な病気だけに療術治療も思わしい効果があがらず、このままでは命の危険もある
状態であった。
だが幸い、その病気には特効薬が存在していた。「龍舌樹の花蜜」を飲ませれば完治する
という。エンガワの相談とは、その花蜜を山田の領主としての伝手で入手できないか、
というものだった。
だが、龍舌樹は100年に一度しか開花しない事が最大の問題であった。
次回「センチュリー・フラワー」
エルフ族曰く、寿命の短きヒトの身にては、その樹の苗を植えし者が花を見ることは、
けっしてかなわぬ望みなりと。 ミナミキイロアザミウ魔で大草原不可避
でかいと顕微鏡なくても判別できて楽ですわ……(震え声) >>70
山田は王立植物園の龍舌樹がちょうど開花期であることを思い出し、植物園に向かった。
しかし時遅く、花蜜はすでに王立療術院の患者に投与され、一滴も残っていなかった。
やむなく山田は冒険者ギルドに採取依頼を出すべく、手配書に使うための念画を資料室で
選んでいた。すると画像を見た黒髪美少女メイドのミヤゲが、首をかしげながら
これって「蜜の木」ですよね・・?とつぶやいた。
詳しく聞いてみると、彼女の生まれ育った集落には「蜜の木」がたくさん植えられているという。
翌日、彼女の案内で訪れた小さな集落には、いたるところに龍舌樹が育っていた。
今年植えられたばかりの実生苗から、見上げるばかりの成木まで。数日後には開花しそうな木も
数本あった。聞けば、この集落には人生の節目に龍舌樹を植える習俗があるのだという。
自分が生まれた日。成人の仲間入りをした元服祭の日。婚礼の日。妻が娘を生んだ日。
娘が嫁入りした日。孫が生まれた日。妻がこの世を去った日。そして子供や孫に囲まれて
自分が見送られた日。
その節目に龍舌樹は誰かに種を蒔かれ、子供と共に育ち、孫と共に生長し、逝く者を見送り、
やがて樹は花を咲かせ種を結んで枯れ、その種を曾孫が蒔き・・
誰が始めた習俗なのか、知る者はいなかった。あるいは家族を難病で亡くした者が
供養のために植えたことがきっかけだったのかもしれない。今は理由も忘れ去られ、
龍舌樹は、たださわさわと風に葉をそよがせ集落に木陰を作っていた。人々はその下で笑い、
泣き、怒り、喧嘩をし、また愛し合い・・ただ静かに、人の営みが続けられていた。
数日後、山田は龍舌樹の花蜜を採取してエンガワに渡し、それを服用した母親は
ほどなくして回復した。
(続く) エンガワから母親についての報告を受けた夜。山田は自室で一人、花蜜の蒸留酒割りの
盃を傾けつつ物想いにふけっていた。
皆に愛される植物は、龍舌樹のように100年後も残っていることだろう。
だが自分の育てている植物達は、自分がいなくなっても大事にしてもらえるだろうか。
ナナ達は誰かが引き継いで育ててくれるだろうか。それとも無価値な量産品と
思われて、自分がいなくなったあとは皆に見捨てられ、枯れはてているだろうか。
それとも魔王が復活して王国が滅び、そもそも園芸を楽しむ世ではなくなっていて・・
それならそれで諦めもつくか。
いずれにしても、神ならざる身には考えても無意味なことではあった。
今はただ、自分の背中に背負える分、自分の歩けるうちは大事に守っていこう。
そう思うだけだった。
バルコニーに出た山田は酒盃を夜空の二つの月にかざし、
100年前に龍舌樹を植えてくれた顔も名も判らない誰かに、感謝の意を捧げつつ
酒盃を干すのだった。
なおその後、一時は歩けなくなるまで弱ってしまっていたエンガワの母親は、体を復調させる
ために機甲拳の再修行を開始した。時々はリハビリのために豪傑熊を素手で倒して
いるという。
そして場面は王宮へと移る。
次回「笑わなくなった花嫁」
それは山田が、泥棒さんになる物語。 白絹病、軟腐病、ネコブセンチュウ、ネカイガラとかもヤバイね
菌類と共生する種族とかどうだろう? クラリスド・ヤギオストロ・アルバ。
前王時代に探検隊が暗黒大陸から採集してきた、ヤギオストロ草の白花個体である。
かつては王宮筆頭庭師が世話をして咲かせ、その美しい花が毎年王宮に飾られていた。
前王が「純白の花嫁」と呼び、最も愛した花であった。
しかし7年前の火事で筆頭庭師が亡くなってからは、一度も花を咲かせたことがなかった
現在の筆頭庭師は「あの株は老化して花が咲かなくなったのでございます」と現王に
説明しており、王宮では「笑わない花嫁」と呼ばれるようになっていた。
現庭師は宮中工作に熱心な某伯爵と結託し、貴族達の妻や娘達への贈呈用の花を
熱心に育てては横流ししていた。それ以外の植物の扱いはいたって適当で、部下達もそれに
追随していたので、ここ数年の「花嫁」の世話は、雑用係をしている前庭師の孫娘に
すべて任せられていた。孫娘は肥料や用土、灌水量などをいろいろ工夫してみたが
株が茂るばかりで花を咲かせる気配はまったく無かった。
(続く) 山田は宮中で「花嫁」の噂を聞いて興味を持った。
しかし現庭師は、あの花はもう駄目だよと笑うばかりで、話しても得られるものは無かった。
山田は温室に出向いて、泥にまみれながら「花嫁」の世話をしている孫娘を見つけ、
ようやく詳しい話を聞くことができた。
「花嫁」は亡くなった祖父が一人で育てており、詳しい育て方は家族にも秘密にしていたこと。
隠しているのは簡単すぎて知られればすぐ真似されるからで、お前が庭師になった時は
秘密を種明かししてやると言って頭をなでてくれたということ。
祖父の残した栽培手帳に、一つだけ意味の判らない文章が書かれていたということ。
「光と影を結び 花咲く時を告ぐる日 誇り高きヤギの陽に向かいし眼(まなこ)が
開かれん」
お役に立ちますか、と不安げに言う孫娘に、山田は立ちます立ちますと明るく答えた。
その文章を聞いた山田は、ただちに一つの仮説に思い至っていたのである。
次回「ヤギオストロの白」
山田が花と絆を結ぶ秘伝、それは燃え盛る愛。 山田は謎の文章が、日長時間のことを示唆するのではないかと推測した。
自生地の気候・日長、王国の気候・日長を比較して必要なのは短日条件と予想し、
前庭師の家の倉庫で暗幕を見つけた時に確信に至った。
そして日長時間を一日の3分の1に制限し、それを30日間続けて花芽分化に成功した。
その後の出来事は園芸とは無関係なので概略に留める。
この件が気にいらない某伯爵により、山田は暗殺者を送りつけられたり地下牢獄に
落とされたりしたが協力者と一緒に頑張って最終的には全部解決した。
そして上作はまだできない孫娘から、一つだけ何かを盗んで山田は去っていった。
考えてみたらこの話では去る必要が無いぞ山田。おーい。
以上ノーカットだと上映時間100分。(意味不明)
そして次の話は山田領の近在。
次回「緑の魔境」
お題:病虫害。 山田領に隣接する未開拓の原生林、マンガの森。そこは他の土地ではすでに絶滅した
貴重な動植物の宝庫であると同時に、人間の命をおびやかす数多くの危険な生物が生息
する「魔の森」でもあった。
人体に無数の卵を産み付けて、孵化した幼虫が文字を書くかのように皮下を掘り進み、
腹部に達すると内臓に潜って食い荒らすハラモグリバエ。
下肢に無数の肉腫を発生させ、しだいに足を腐らせていくアシコブセンチュウ。
死者をゾンビ化するネクロキセラ(ブードゥー・ネアブラムシ)。
体のすべての穴という穴から潜り込み、何年も陰湿に吸血を続けるインシツアナジラミ。
「猫をモフらないと死んでしまう病」を媒介して、猫を飼いながらでなければ生活の
できない体にしてしまうネコカイナガラムシ。
さらには股間白絹病、陰嚢軟腐病、尿道サビ病、俗に男根腐れ病と呼ばれる男性器立枯病。
人間の尊厳をふみにじる各種の風土病もまた猖獗(しょうけつ)を極めていた。
魔力の低い者が防毒面を装備せずに森の奥へ進めば、立ち込める瘴気(しょうき)が
肺を腐らせる魔境。古くは「腐界」と呼ばれ、とある小国の蟲愛ずる姫君を除けば
近寄る者さえほとんどいない緑の地獄。それがこの森であった。
だがその森の最深部には清浄の地があり、そこには巨大な真紅のイチゴが存在している。
山田領にはそういう伝説が伝わっていた。
ある日、その伝説の真偽を確かめるべく一人の若者が山田領を訪れた。
次回「伝説のイチゴ」
今、若き匠の覚悟が、森の奥で試される。 イチゴ匠。王室行事であるイチゴ狩りに使用される、イチゴの管理と育成をする伝統職で
ある。
過去にも王国のイチゴ匠達は数々の名イチゴを世に送り出してきた。しかしその中でも現在の
イチゴ匠長が育てあげたイチゴ「アマ王」は歴史に残る名イチゴと讃えられており、
その名声は世界各国にまで響き渡っていた。
弟子達は皆、早々に師を超えることを諦めていたが、ただ一人だけ師を越えんとして
研鑽を積む者がいた。若い娘の身でありながら師への弟子入りを志願し、その剣の技と
卓越したイチゴさばきの腕前によって弟子入りを認められた若きイチゴ匠。
それが彼女であった。
だが、凡庸なイチゴではけっして師のイチゴを超えることはかなわぬ。
そう考えた彼女は、かの伝説のイチゴを自らのものとすべく、山田領を訪れたのである。
以前から自分も「魔の森」の調査をしてみたいと考えていた山田は、自分に加えて召喚士、
錬金術師、女匠のプチハーレム的4人パーティーを組み、「魔の森」の奥へと向かった。
(続く) その探索行は、幾度となく一行の命をおびやかす過酷なものだった。
ある時は山田を襲ってきた魔獣を女匠が倒し、またある時は召喚士に山田が助けられた。
時には錬金術師が山田の命を救うこともあった。
こうして最深部に至った一行は、ついに伝説のイチゴに対峙した。
その姿の紅玉色の輝きに皆が見とれている時、イチゴはぶるりと体を震わせ、長き眠りから
目を覚ました。その赤い瞳と目が合った時、一同の頭の中に人間とは異質な生き物の
思念が流れ込んできた。それはヒトの言葉では表現できぬものであったが、思念の意味は
明確に理解できた。
ーー 小さき者よ、我があるじとなるにふさわしき者であるか否か、自らの力をもって
我に示せーー
女匠は片刃の鍛造剣をかまえて必殺剣技の構えをとり、錬金術師は魔杖を握って全体防御魔法の
準備をし、召喚士は極大攻撃呪文の予備詠唱を開始、山田は邪魔にならない距離に
素早く退避し固唾を飲んで見守った。
その時、イチゴは真紅の巨大な翼を広げると、大きく羽ばたいて空へと舞い上がった。
次回「天空の覇者イチゴ」
女匠の命をかけた戦いがはじまった。 <脚注>
イチゴ狩り:
炎龍ストロベリーの亜種であるイチゴを使役し、ゴブリンやオークを狩る王族のスポーツ。
トクガー王家の開祖、イエヤス王が無類のイチゴ狩り好きであったため王室行事となったと
伝えられている。 バトルシーン省略。
かくして女匠は真紅の雌イチゴに主人として認められ、イチゴを「アキ姫」と名付けて
王都へと連れ帰った。その後「アマ王」と「アキ姫」は王国の双龍と呼ばれるようになり、
のちに2頭は番いとなって、その間に数々の名イチゴを生み出したという。
山田? 魔の森で酸っぱい味のする新種の草を発見して「スコンブ」と名付け、
それを栽培して売り出し、ちょっとだけ儲けた。以上である。
次回「茸人を統べる妖花の女王」
お題:菌類と共生する種族。 バンパイア・ドライアド。通称フセイラン。
植物系の魔物であるが葉緑素を持たず、菌類系魔物のマイコニド(姿が人間に似た歩くキノコ。
ファンタジー系ではわりと定番)の首筋に噛みつき、生命力を吸い取って生活する魔物である。
言ってみれば植物版の吸血鬼というか、吸茸鬼である。
フセイランは魔力によって茸人(と書いてマイコニドと読む)を下僕と化し、自分に
生命力を捧げさせていた。しかし一方でフセイランは下僕に「女王の黄金水」と呼ばれる
魔力のこめられた液体を与え、茸人はそれを頭にかけられることで活力を得ていた。
つまり両者はある種の共生関係を築いていた。
フセイランのしなやかな肢体、透けるように白い肌、輝く銀髪と血のように赤い目には
凄みのある美しさがあり、茸人を下僕として使役する生態と相まって「妖花の女王」という
異名がつけられていた。「女王」を手元に置いてみたいと考える貴族は多く、懸賞金をかけられて
フセイランは次々と乱穫された。しかし「餌」となる茸人は森の中の特定の樹木から
引き離すと、なぜか衰弱して死亡してしまう性質があった。そのため茸人を森から引き離す
ことは不可能であり、それゆえフセイランもまた人里に連れ出すことはできなかった。
しかしその事実が周知された頃には、すでにフセイラン族は狩りつくされていた。
そして貴族の館に捕らえられていた全員が次々に衰弱して死亡。
こうして数十年前にフセイラン族は絶滅した。
ーー と、そう考えられていた。
次回「その2」 ところがある日、ヤーフ領のオークションに突如として生きたフセイランが出品された。
現代日本で言うとニホンカワウソの生体が出品されたような状況である。
絶滅種とされていたため売買を規制する法律が無く、出品停止にする根拠は無かった。
すぐに入札合戦が開始され、あれよあれよと言う間に価格が高騰。最後には「からかって
架空入札しただけだよね?」と言いたくなる値段で落札された。
この件は園芸家の間で大いに話題となり、「あれ見た?」「見た見た。でもあれって、
幻覚魔法で作った画像で、実在しないんじゃね?」などといろいろな憶測が飛びかった。
ほとんどの者はすぐに忘れてしまったが、本気で詳しく調べてみようと思った男がいた。
おなじみ山田の登場である。
次回「その3」
今回のエピソードもけっこう長くなります。 山田は、フセイランと同時出品されている安価な商品をさりげなく落札しておいた。
それによって出品者の所在と名前を確認し、とある小領の領主である事を知った。
そして、その領主への突撃取材を試みた。
とは言っても門前払いされぬよう、あらかじめ国王から紹介状をもらい、アポを取って
からの話である。ところが領主は、自分の臨時収入の話を聞きつけて王都から徴税人が
やってきた、と勘違いしてガクブル状態であった。
いえいえ、わたくしは官司ではありませぬ。山田デリバリー商会と申しまして、
と自己紹介すると、
え?あ、ああ・・あの有名な。・・では徴税のお話ではない・・のですか、と、領主は
心底ホッとした表情になった。
じつは領邦内の各地に残っている伝統野菜の調査収集をしております。オークションで
お取引させていただいたのも何かのご縁、こちらの領内での野菜収集をご領主様に
ご許可いただけないものかと思い、お願いに参上いたしました次第でして。
は、まあ、そ、そういう事でしたら、も、問題はないでしょう。
しかし何ですな、商会長様が直々に調査に回られているのですな。
やはり王室御用達になられる方は熱意が違いますなあ・・。
などと徐々に警戒心が解けていき、やがて交渉成立を祝してその晩に山田が一席設ける、
という話がまとまった。
次回「その4」 というわけで近在の高級宿の併設酒場、地球で言うと地方の中堅ホテルの最上階レストラン
個室席、といった感じの場所で酒席が設けられた。
領主から調査許可の書状を受け取ったあと、ここは私の奢りですのでご遠慮なさらずに、
と言ってどんどん酒を勧めた。ちなみに山田が飲んでいたのは酒に似た色の安い茶である。
領主に酔いが回ってきた頃を見計らって、
そういえばご領主様はフセイランもご出品なさっておられましたが、あのような珍種を
捕えるまでの遠征旅行は、さぞかし大変だった事でしょうな、
などと話を振ってみた。
そしてポロポロと口をすべらした話を総合してみると、どうやら領内で魔獣の猟師が
偶然にフセイランを見つけ、その話を聞いた領主が領兵と共に猟師の案内で現地に
おもむき、捕えてきたものであるらしかった。
ーー もう一匹も、もっと育っておれば捕まえてきて売り物にできたのだがな ーー
領主が酔いつぶれる前に言った言葉を、山田は聞き逃さなかった。
次回「その5」 翌日から山田は、領内を回って聞き込み調査を始めた。やっていることがほとんど私立探偵か
秘密諜報員である。山田領の領主の仕事はどうなっているのか山田。がんばれ家令。
「こんにちわー。いや怪しい者ではありません。ご領主様にご許可をいただいて、珍しい
地場野菜がないか探している山田と言います。こちらはお姉さんの畑ですか?
ん〜〜、これは美味しそうですねえ。この葉の紫と黄色の水玉の色艶が何とも。
根はどうなってます?え?抜いていい?・・ではお言葉に甘えて・・よいしょっと。
おおお、生きがいいなあ、すっごく走り回ってる。食べ方は?ふむふむ、煮付けと・・
活き造り?私の故郷ではサラダと呼んでますよ。
こういう新鮮な野菜を毎日食べてると美容にいいでしょ?だってお姉さん、お肌がツヤッツヤだし。
とてもお孫さんがいるようには見えないですよーいやホント。
あ、あと、このへんの森ではどんな山菜や魔物が採れるんでしょうかね?」
こうして農家のおばちゃん、もといお姉さんに聞き込みを続けた。そしてある集落で
一つの情報を得た。
「このあいだ、あの領主がむさい男達と一緒にうちの家に来たんだよ。森に魔物狩りに
行くから食い物をよこせって言うの。貧乏人から徴発しないで自分で用意してほしいよねぇ。
金?あのドケチ領主が払うわけないさ。あ、私が話した事は領主の奴には内緒だよ。
どこに向かったかって?あっちの森だね。何を狩りに行ったんだかは知らないよ。」
どうやら向かうべき場所が絞り込まれてきたようである。
次回「その6」 こうして山田は問題の森へと向かった。領主であれば自領での狩猟採集は自由であるが、
他領の者の場合は申請して許可をもらう必要があった。しかし今回の場合、許可がもらえる
とは思えなかったので、黙って森に入った。不法侵入である。
というか、本来であれば冒険者ギルドへの届け出もなく森に入るのは自殺行為である。
この世界の森には魔獣が出没するので、大雪山山系のヒグマのテリトリーに入山届けを
しないで単独行するようなものである。高確率で魔獣さんこんにちわ、三毛別羆事件
になってヒャッホーイである。知らない人はググるな危険。いやマジで。
とはいえ山田も「魔の森」で魔獣に襲われて学習していたので、光学迷彩に加えて
体臭と体温の隠蔽効果のある「隠れ外套ロイヤルセレブ」(命名:山田)を着用していた。
そのため魔獣との戦いは免れた。
しかし森の中に入り込んでいくうちに携帯占術板が圏外になっていてプチパニック。
岩から滑落し、食料をアイテムボックスごと落とし、鍛えてない足がつった。
しかし数々の苦難を乗り越えてそのまま道に迷・・森の奥へと進んだ。
次回「その7」 ここで解説を加えておくが、自生地で希少植物を見つけることは思うほど簡単ではない。
自生地内にある程度の個体数が散在している場合には、漠然と歩き回っているだけでも
意外と見つけられるものである。
しかし限られた1地点にしか自生していない、という場合には「○○山の✕号登山道の稜線側」
などという具体的な情報があっても、見つけきれずに戻ってくることがしばしばある。
その場所に詳しい案内人がいるか、GPSロガーによる詳細な位置情報が入手できなければ、
そう簡単に出会えるものではないのだ。
しかし山田の場合は違っていた。彼のステータス値は「知性」と「怪しさ」を除いて
すべてが微妙な数値であったが、隠しパラメータである「運命」はレベルMAXで数値が
カンスト状態だったのである。そのため彼は大きな運命の歯車に動かされ、ある場所
へと向かっていた。そうでないとストーリーが進まないからだとか、ご都合主義だとか、
そんなチャチなものでは断じてない。
次回「その8」 そして山田は、地面が妙に荒らされている一帯を見つけた。
これは・・人間が入り込んだのか?・・周囲を見てみると、落ち葉を集めて積み重ねている
場所がある。何だろう? そう思って木の枝を拾い、落ち葉の山を崩してみた。
するとその中から出てきたのは・・
死体だった。
土気色に変色した手が、落ち葉の中から現れた。
「”#$ぎ%&ぇ&;よf^!!!!」山田は文字にも書けぬ悲鳴をあげた。
幸い、さきほど排尿したばかりだったので、失禁はまぬがれた。
だがこの死体が登録済の冒険者なら、教会に連れていけば蘇生できるかもしれない。
少し冷静さを取り戻した山田は、死体をあらためて見てみた。
するとその死体はどうやらヒトではなく、頭を潰された茸人のようだった。
死後だいぶ時間が経過しているようで分解が進んでおり、枝で強く押すとその体は
土塊のようにボロリと崩れた。
さらに探すと、同じような落ち葉の山がいくつも見つかった。
ある落ち葉の中には火炎魔法をうけたと思われる、一部が炭化した死体。
また別の落ち葉の中は刃物でざっくり切られたと思われる死体。
「こんぼう」を握りしめた死体もあった。誰かに一撃でも反撃しようとしていたので
あろうか。
どうやら「女王」がこの場所から拐われたのは間違いなさそうだった。これらの死体は
抵抗しようとした茸人の下僕達だろう。生き残りはいないのだろうか。
その時、山田の視界の隅に、何かがごそりと動くのが映った。
次回「その9」 魔獣か!
山田はその場で動きを止めた。隠れ外套を着用しているので、音を立てなければ普通の
者には山田の姿が見えないはずである。
しかし、下草をかきわけてゴソゴソと現れたのは、枯れ葉を両手にかかえた茸人の幼児だった。
幼児は死体を隠してある落ち葉の山の上に、新しい枯れ葉を加えた。それから山田が
乱した落ち葉を整え、落ち葉の山に向かって祈るようなしぐさをし、フヨフヨと踊りはじめた。
死体を落ち葉で隠し、その前で踊るというのが茸人の一般的な習俗なのか、それとも
幼児が発案したオリジナルなのか、山田には判らなかった。だが、少なくとも茸人は
仲間の死を悼む心を持っている種族のようだ。山田はそう判断した。
この幼児が一人だけ生き残って、大人全員の死体を弔って回っているのだろうか?
そっと近づこうとした時、山田は足元の枯れ枝を踏み折って、ばきりと音をたてた。
幼児はビクッとして、踊りをやめて一目散に逃げ出した。
・・とはいえ、その逃げ足の速さは人間の幼児のヨチヨチ歩きと大差がなかったので、
山田がそのあとを追跡するのは容易だった。
次回「その10」 少し移動すると、周囲の空気が変化していることに山田は気づいた。
明らかに魔力濃度が高く、山田の体力も妙に回復しているような感覚がある。
その魔力の流れの中心にあったのは、樹齢もわからぬほどに年老いた一本の巨木。
山田にも名前のわからぬその木は、山田の知識にない聖なる魔力属性を帯びており、
山田の知っている言葉で言うならば「ご神木」とでも呼ぶのがふさわしい存在だった
そして、その神木の根本に、一人の大人の茸人が横たわっていた。領主の配下と戦った
時の負傷であろうか、頭の茸笠が半分もげていて汁が流れ、片目はつぶれ全身が傷だらけ。
あちこちに虫がたかってブンブン飛んでいる。
その体にさきほどの幼児がしがみついて、だんだん近づいてくる見えない何かに怯え、
ブルブルと震えていた。
そして山田が何よりも驚いたのは、死を目前にしているらしき茸人の、力のない腕の中に
抱かれている裸のーー ひどくやせた、小さな赤ん坊の存在であった。
その赤ん坊の肌は透き通るように白く、髪の毛は輝くような銀色だった。
次回「その11」 山田は理解した。
ここにいるのが、最後の「女王」と、生き残ったすべての臣民なのだと。
人間の蹂躙を受けた「王国」が、終焉をむかえる時に自分は立ち会っているのだと。
彼らは、この地を離れれば生きてはいけない。人間が悠久の昔から続く「王国」を壊し、
仲間の命を奪い、「女王」に辱めを加えたとしても、ここから逃げるという選択肢は無い。
そして逃げずに戦った者は、人間に返り討ちにされて落ち葉の下に還ったのだ。
拐われた「女王」は、赤ん坊の母株なのだろうか? 美しい「女王」を人里に招きたい、
という気持ちは理解できる。だが、その行為が彼女の命を奪うということは、
今の時代であれば、少し調べればすぐに判ることではないか!!
いや違う。領主の思考はおそらくそうではなく・・
ーー ふぎゃあぁぁ、ふぎゃぁぁぁ ーー
山田は赤ん坊の泣き声で、はっと我に帰った。
ええええ、何?お腹すいてる?ミ、ミルク?このへんにコンビニとかドラッグストアとか無い?
冷静になれ山田。
次回「その12」 フセイランに必要なのは母乳ではない。
それに気付いた山田は、緊急使用を想定して分散して持ち運んでいた回復ポーションを
すべて取り出した。そして大人の茸人にどんどん与えた。
通常のポーションでは身体の欠損部位を再生するほどの効力は無かったが、生命力だけは
完全に回復できたようで、死にかけていた茸人の茸色はみるみる改善した。
茸人は起き上がって胸にかかえていた赤ん坊を抱き直し、神木の太い根に腰、でなく
茸軸をかけた。そして赤ん坊を持ち上げると、その口を自分の首筋にそっと添わせた。
赤ん坊は泣くのをやめ、長い間チュウチュウと茸人の首筋を吸っていた。やがて口を離すと、
満足そうに大きなゲップをし、ことん、と寝てしまった。
茸人は山田に向かって・・と言っても山田の姿が見えなかったので、だいぶ方向が
ずれていたのだが・・何度も感謝の意を伝えるしぐさをしていた。
あるいは姿の見えない神様が降臨して、自分達を救ってくれたと思ったかもしれない。
山田はそれを見届けると、フニュフニュと謎踊りをしている茸人の幼児に向かって
怖がらせてすまなかったな、と言ってその場を立ち去った。
ちなみに帰路もさんざん道に迷い、ポケットに残っていた腐ったパンと、雑草を食べて
空腹をごまかしつつ、夜中になってからようやく人里へとたどりついた。
次回「その13」 ただのネタスレかと思って覗いてみたらすごく面白いな
フセイランとか知らないのもあって勉強になる イチジクとイチジクコバチ、アングレカム・セスキペダレどキサントパンスズメガの関係性とかもいいネタになりそう 今回の件については、山田に深い考えがあったわけではない。
「ニホンカワウソ発見!? やっべ、俺、生息地だけでも見に行ってくるわ」的なノリである。
その結果として死にかけていた茸人を助け、最後の「女王」も救ったのだが、
これは終焉を若干先延ばししただけで、よく考えれば何の解決にもなっていない。
ここで想像してみていただきたい。あの赤ん坊が無事に育ち、しなやかな肢体をもつ
小学生ぐらいの銀髪美少女に生長した姿を。すると例の領主が領兵をつれてやってくる。
「おぅおぅおぅ、ずいぶん育ったではないか。これなら十分に客がつくよなぁ〜〜?
お前ら、この娘を連れていけえぇ〜ヒャッハー!」「「「ヒャッハー!!!」」」(以上山田妄想)
もし山田が、全国を世直しのため漫遊している勇者様ご一行であるなら話は簡単である。
「ひかえおろう!この『勇者のしるし』が目に入らぬか!何?改心せぬと申すか!
ならば俺の名が引導代わりだ!どうりゃあぁぁズッパパーン(勇者スラッシュ命中)」
しかし山田は地方都市の中小企業の社長にすぎない。他領の領主様に指図ができるような
身分ではないのである。
次回「その14」 山田とか女王とか
山田養蜂場の社員か?w
てか生産系なろう小説と被ってるの大杉 ならば本物の勇者様に頼んで、と言いたいところだが、これがどうも現実的ではない。
勇者様は植物に関して、まともな知識をお持ちではなかったのだ。
異世界から苦労して召喚した貴重な水生穀物の種子を、乾燥した墓地に覆土もせずにバラ蒔いて、
「この墓地の下には、この穀物を愛した老人が眠っている。だからここに蒔けば実るのだ!」
などと言ってしまう、ちょっとアレなお方だったのである。
そのため勇者様を希少植物の保護活動に参加させた場合、ほぼ確実に「無能な働き者は、
有能な盗掘者よりも恐ろしい」と言われる状況におちいっていたのである。
それゆえ、山田は極力勇者様には関わりたくなかった。
そうなると、あとは領主の権限を抑圧するためには領法よりも上位の法律、つまり
王国法に頼るぐらいしか方法はなかった。
次回「その15」 たとえば王国文化財保護法による、王国天然記念物への指定。
しかし、これもまた山田個人の力でどうにかなる範疇を超えていた。
ある程度まで世間の興味が高まり、保護指定に向けた世論の動きが認められてからで
なければ、王国行政はけっして動こうとしないのが通例だったからだ。
とはいえ、現在、世の中は「採集消費の時代」から「保護して持続的に利用する時代」
へと確実にパラダイムシフトが進んでいた。それは10年単位でしか違いのわからない、
非常にゆっくりした動きではあったが、少なくとも「保護」を訴えた者が、世の中から
変人のように見られるようなことはすでに無くなっていた。
そして、王国環境庁が策定したある法律の実施が、昨年度にすでに閣議決定されており、
施行が目前にせまっているという情報を、山田はまだ把握していなかった。
次回「その16」 良いものを見せていただきました
お礼に鶏糞を置いていきます だが、この物語の結末を伝える前に語っておかねばならぬ事がある。
オークションで落札されたフセイランの成株はどうなったのか、である。
その行方は山田が探すまでもなく判明した。
王都のとある貴族が、落札したフセイランを他の貴族達に大いに自慢し、披露パーティー
を開催したり、宮廷画家に肖像画を依頼したりしたからである。
山田はその貴族とは交流が無かったが、知人を通じて接触をはかった。そして
ぜひとも私もご貴族様の貴重な栽培株を拝見させていただきたく存じます、と頼み込んで
了承を得た。
貴族の邸宅を訪問、しばらく歓談したあとに広間に移動し、フセイランが連れてこられた。
身にまとった装束や装身具は「妖花の女王」の呼び名にふさわしい豪華なもので、王妃様と
対抗できるほどの品々であった。彼女の凛とした立ち居振る舞いは貴族だと言っても
誰も疑わないほどのものであったが、豪奢なドレスの影にちらちらと見える奴隷用の
逃亡防止の術式をこめた首輪や手足の枷が、彼女の立場を物語っていた。
そしてその容貌は伝えられる通りの美しさではあったが、驚くほどにやせ細っていた。
元来の肌色の白さもあって、屍術士が墓地から呼び出した幽鬼を思わせるような
姿だった。
次回「その17」 山田は内心では大いに思うところがあったが、表面上はあくまで友好的にふるまった。
おおお、実に素晴らしい。このような珍しい魔物が見られるとは眼福の極み。
こやつがお手元に得られた事は、まさにご貴族様のご権勢の象徴でございましょう。
いやいや、それほどでもないのだがな、と言いながら、それほどでもある態度で
ドヤ顔をしている貴族はたいへん上機嫌だった。
・・ですが、フセイランは人里では長くは生きられぬという噂を聞いておりますが、
と山田が切り出すと、貴族は
貴公はよく知っておるなぁ、普通は知らぬ者が多いのだが、と答えた。
何と!すぐに死んでしまう魔物と知っていて、あれほどの高額で落札なさったのですか!
ああ、承知の上で買ったのだ。わしが必要だったのは社交界で自慢するための道具
だからな。その役目は十分に果たしてくれた。世界最後のフセイランを所有していた男、
という名誉を得て歴史にも残るであろう。それを考えれば安い買い物だったぞ。
枯れ果てたら、あとは剥製にでもして応接室に飾っておこうかと思っておる。
山田は、お前はコスモドラグーンで撃たれてしまえ、と思いつつ会話を続けた。
次回「その18」 貴族は言った。
森から連れてきて50年共に暮らしたとて、結局最後に枯らしてしまうのであれば
5日で枯らすのとどこが違うのだ。長く生きていたから栽培成功、などと言うのは
しょせんは自己評価、自己満足にすぎぬ。ならば自分が満足できさえすれば、
栽培期間の長短など問題ではない。栽培は成功したのだ。貴公はどう思われる?
・・え、まあその、そういうお考えもあるかと。
ですが、フセイランはいざしらず、普通の植物であれば長く栽培するほど増殖も
いたしますし・・
ああ、貴公も殖やして楽しむ派なのか・・あの男のようにならねば良いのだがな。
・・あの男?
わが貴族家に仕えていた園丁だよ。栽培増殖の技術は一流だった。
だが・・奴は勘違いをして身を滅ぼした。
貴族は使用人に、この場に新しい茶を用意して持ってくるように命じた。
次回「その19」 奴はわしが子供の頃も、わしを子供扱いせずに真摯に植物の事を教えてくれた。
自分が殖やした希少植物を王国中に広めて、絶滅しかかっている植物を普通の植物に
格下げしてやるのだ、と目を輝かせて語ってくれたものだ。
だがな、奴は勘違いしていたのだ。自分以外の園芸家も、自分と同じように植物を
愛しているのだとな。普通の園芸家にとって、園芸植物は使い捨ての、根のついた切り花だ。
だから奴が心血を注いで殖やし、配布した希少植物も、まともな扱いはされなかった。
1年たつと半分枯れ、5年たつと1割も生き残っておらず、10年後に育てているのは奴一人に
戻っておった。
それでも奴は諦めなかった。自分が育てるのを止めてしまったら、希少植物は王国から
絶滅してしまうと言ってな。傍から見ていると、自分一人で血を吐きながら悲しいマラソンを
続けているかのようだったわ。
・・だがな、ある日奴はとうとう壊れた。奴が苗を送ってやった相手がたずねてきてな。
また苗をわけてくれと言ったのだ。「植替えしないでいたら枯れちゃってさー。また
苗をくれよ。たくさんあるんだから問題ないだろ?」とな。
奴は無言でそやつに水をかけて追い返した。赤い顔になって怒りで震えておった。
だからわしは言ったのだ。「草ごときの事で、あまり心を病むな」とな。
・・その夜に奴は温室に油をまいて火をつけ、その中に飛び込んで命を断ったのだ。
次回「その20」 今思うに、奴にとって自分が育てているものは「草ごとき」ではなかったのだ。
自分の一番身近にいた者ですらその気持ちを理解していなかった。それを知ってしまって
絶望したのだろうな。・・橋の上で水面を眺めていた自殺志願者の背中を、わしは
押してしまったのだよ。
自分の愛した草を残していくのは心残り。さりとて託せる相手もいない。
結局、花と無理心中したのだな・・結局、奴はあまりにも生真面目すぎたのだ。
貴公も草ごときに過度に思い入れをすれば、その身を滅ぼすぞ。
ああそうだ。「草ごとき」だ。わしにとって植物とは、自分の欲望を満たすための
道具にすぎぬ。園芸などしょせんは暇つぶしの娯楽、命を削ってまでやるものではない。
花を愛したがゆえに苦しむのなら・・
愛などいらぬ。
そう言って茶をあおった貴族の顔は、どこか寂しそうに見えた。
次回「その21」 >>76 です
軽く振ったつもりでしたが
こんなに中身の濃い長編になるとは
面白いです その考えは間違っています、とは山田には言えなかった。
当然ながら貴族に対し、フセイランの扱いについて考えてください、と言い出せる雰囲気
ではなかったし、仮に言っても聞いてはもらえなかっただろう。
では、その時に山田には何ができたのだろうか。
このフセイランを譲ってください、譲っていただいた事は絶対に口外しません、
私の全財産をお渡ししますから、と言ってドゲーザをして懇願すれば、あるいは譲って
もらえたかもしれない。だが、山田領には神木も茸人も存在しない。連れて帰ったと
しても「女王」のその後の運命に変わりはない。
では故郷の森に帰してやるか。しかし、「女王」2人の命を支えられる人数の茸人はもう
残っていない。仮に茸人が残っていたとしても、森で健康が回復した時点で再度あの領主に
狩られるだけの話である。
ならばその場から連れて逃げて、彼女が力尽きたあとは黒く干からびた屍体を匣(はこ)
に入れて背中に背負い、一緒に全国を旅して回れば満足できるだろうか。
山田がそれを解決策だと思える人間だったならば、この物語がそういう結末で終わった
可能性もあったのだが・・
結局、山田がしたのは黙って貴族の館を立ち去ることだった。
山田はこれから彼女がどうなるか、すべて理解していた。その上でーー
彼女を見殺しにした。
次回「その22」 山田が貴族と話をしている時、「女王」は目の前で自分の死について語っている
デリカシーの無い男達に対して、何の怒りも悲しみも示していなかった。
何かを悟ったかのように、ただおだやかな表情だった。
その目は、ここではないどこか遠くを見つめていた。
山田には、その目が二度とは戻れぬ生まれ故郷の森を思い出しているかのように思えた
その表情が、山田がフセイランを見た最後の記憶となった。
「女王」は与えられた人間用の食事を口にしようとはせず、体力回復用に与えられた
霊薬エリクサーも効果がなく、その後ほどなくしてこの世を去った、という話を
山田は聞かされた。
なお、彼女の死体は剥製にはされず、王立科学博物館に標本として寄贈されたという。
次回「その23」 それからしばらくの間、山田はひどく機嫌が悪かった。
普段は山田の部屋に入り込んで仕事の邪魔をしているナナ&ナナ・ツーも遠慮して近寄らず、
家令のエンガワの頭に登って仕事を邪魔していた。
そんなある日、王国環境庁から山田に書状が届いた。
野生動植物を保護するための新しい法律が創設され、保護指定種を決定する科学委員会が
発足することになった。その委員に山田を任命するというのである。
その法律の名は、「特定第二種王国内希少野生動植物種」制度という。
この法律は従来の「王国内の絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」
通称「王国種の保存法」を補完するもので、簡単に言うとオークションでの希少な生物の
販売を禁止することに特化したかのような法律である。
この法律の指定種となった場合、第一種の希少動植物種のように捕獲・採集が規制
されることは無いのだが、販売することは許されない。そのため衆人環視で行われる
オークション取引には、出品することがほぼ不可能になる。
昨年度に実施は閣議決定済だったが、まだ施行されてはおらず、具体的な規制種の指定は
今後時間をかけて順次決定されていく予定であった。
その決定内容について討議・検討するのが山田の仕事というわけである。
次回「その24」
*この物語はフィクションであり、実在する人物・組織・法律などとは以下略 厳密に言うと「特定第二種」の場合、人工増殖個体であれば販売は可能である。
だが、増殖方法が確立されておらず、野生採取のみが流通している動植物の場合は
事実上販売はできなくなる。一方で野生からの採取個体が捨て値で大量販売されることが
無くなるため、本当に人工増殖されている動植物の場合は販売価格が安定し
増殖業者の利益につながる。そういう想定がなされていた。
山田は、この法律の指定種にフセイランを加えようと考えた。
人工増殖できないフセイランの場合、指定イコール販売禁止になるというわけである。
しかし、この提案は他の委員からは難色を示された。
というのも、もともと特定第二種は二次的自然に生息する動植物、つまり里地・里山で
生きている身近な生き物を選んで指定することが前提とされていたからである。
具体的には第一回の指定として、農業用のため池に棲む有皿緑色水魔の捕獲、
草原性の小妖精の採集、平地性の火精サラマンダーの卵塊採取などが規制される
予定であり、植物系の魔物については今のところ検討対象では無かったというのもある。。
そもそも絶滅寸前の種であるならば第一種の希少動植物種に指定して、捕獲・採取を
禁止すべきであり、特定第二種への指定は筋違いである。それが他の委員達の
意見であった。
次回「その25」 だが、この世界において捕獲・採取の禁止は、領主の狩りの権利に制限を加えることに
つながっていた。そのため王国官僚が第一種への指定に対して及び腰であり、追加種の
選定は遅々として進んでいなかった。
そのため、代替策として特定第二種への指定が重要かつ現実的である。山田はそう主張
した。そして山田の説得により、最終的に他の委員も山田の意見に賛成した。
「では、山田委員の意見を採択するということで(あーもうコイツ何とかしてほしいわー
空気読めねぇし完全に頭おかしいよなー。でもなー王様のお気に入りみたいだし喧嘩しても
俺が損するだけだしなー。考えてみたら指定種なんて何だろうが俺と関係ねーし、適当に
決めて早く帰ろーぜ。あー尻かゆい)」という議長の締めの言葉によって、指定種への
追加が決定した。
こうして、山田はフセイランの販売禁止を勝ち取ったのである。
そしてその後、フセイランが販売されることはもう二度と無かった。
次回「その26」 この法律が施行され、フセイランが販売禁止になったという情報が、例のフセイラン狩りの
領主にもたらされた。その時には、領主は「ああ、もう見つけても売れないのか・・」
とたいへん落胆した。しかしそのあと、憑き物が落ちたような明るい表情になった。
自分はハンターではなく領主である。領主の本分とは、領内の開拓を進めて最新の産業を
誘致し、関係者からリベートを受け取って私腹を肥やすことである。そう思い至ったのだ。
その後、領主は熱心に本分に励み、のちに最新事業に関係した巨大汚職と脱税が発覚して
領主の座を追われたという。
次回「その27」 山田の人生の流れにおいては、ここでフセイランとの関わりが一旦中断する。
そして新たなお題への挑戦が始まっていく。
しかし時系列を入れ替えて、そのあとフセイランがどうなったのかを語っておこう。
ーーーーーーーーーー
それから数年ののち、数々の事件が一段落した山田は、ふとフセイランのことを思い出した。
もしあの赤ん坊が順調に育っていたならば、今頃は全裸の美幼女に生長して森の中を
走り回っているはずである。母親は救うことができなかったが、あの子にはその分、
罪滅ぼしに手助けをしてやりたい。今、何か困っていることはないだろうか。
そう思った山田は、ふたたびフセイランの森を訪ねることにした。
今回は迷子にならぬようにと、レンタル騎乗獣(騎乗用具標準装備、隠れ外套オプション)
を利用した。行き先や道順を騎乗獣が覚えてくれるので、いわばカーナビ付きである。
♪そなたは森で わたしは里で 共に生きよう暮らしていこう 会いに行こうよ
騎乗獣に乗って♪
鼻歌を歌いつつ、のどかにポクポクと進んでいった。
空は青く晴れ、吹き渡る風はさわやか。まさに観光気分である。
次回「その28」 ところが、途中でどうも様子がおかしいことに気がついた。
周辺の木が切り払われて草原になっており、森へと向かう細い道が幅の広い
石畳の街道になっている。
これは!・・
胸騒ぎがした山田は、騎乗獣を急がせた。
進むにつれて嫌な予感はますます高まっていった。
そして行き着いた先に・・
森は無かった。
整地された平原に、領内の人々を幸せにするための最新の事業設備ーー
太陽光から光の精霊の魔力を抽出するための黒いパネルが、一面に並んでいた。
そこには木も草も無くーー
ーー 生き物の姿は、もうどこにも見当たらなかった。
次回「後日談その1」
あと数回でラスト。 そして、それからさらに数年後。
元・宮廷錬金術師(その頃には王宮を退職)は、山田に頼まれた買い物のため、隣国の
盆栽市を訪れていた。その時、露店で植物を物色している一人の男を見かけた。
見た瞬間、彼女は全身が総毛立つような戦慄を覚えた。魔道士のローブを着たその男は、
見た目にはただのさえない中年男にすぎなかった。しかし彼女の魔力知覚は、その男ーー
否、その「何か」は、この世ならざる場所に実体をもつ、名状しがたい怪しさの宝石箱
であることを告げていた。その身に纏う病的かつ冒涜的な禍々しい混沌とした変態の
オーラは、明らかに人間のものではありえなかった。
しかし、恐怖に駆られ、その場を逃げ出そうとした彼女の足が止まった。
その「何か」ーー便宜上「その男」と呼ぶがーーの隣にいた二人の女性を見た時、
錬金術師としての好奇心が恐怖を上回ったのである。
女性のうち一人はすらりとした長身の、凄みのある美女。もう一人はその女性に
よく似た顔のまだ幼い女の子。その二人は共に透き通るように肌が白く、髪の毛は
輝くような銀髪で、目が血のように赤かった。
次回「後日談その2」 意を決した彼女は、あの・・突然申し訳ありません。私は山田領の錬金術師で
ございますが・・と思い切って話しかけてみた。すると意外なことに、その男は
ああ、山田殿の・・彼の事はよく存じております、と答えた。
いえ、面識があるわけではないのですがね・・この子の・・
男のローブの裾を握っている女の子の頭を撫でて、男は続けた。
この子の乳母が、私がこの世界を留守にしている間に、姿の見えない神様に命を
救ってもらったというのでね。何があったのか「過去視の水晶玉」で調べたのです。
それで山田殿が何をしておられたのかを知りました。実に面白い方だ。
・・あの、こちらのご婦人は?・・まさか、そんな事が・・
ああ、保存されていた身体を盗み出してくれば、蘇生自体は簡単ですよ。
大変だったのは復活時に生命力を分けてくれる茸人達を、培養して殖やすことでした。
そ、それはどのような・・
そう問う錬金術師に男は言った。
次回「後日談その3」 「三者間共生培養」その一言だけで山田殿ならばご理解なさると思います。
が・・もし判らなかったとしても、意味を調べる必要はありません。
ヒトの身で、神木と茸人の秘密に関われば命を削られます。
「頑張れば育てられる」それは裏を返せば「少しでもつまずいた時は、すべて枯れる」
という意味でもあるのです。
永遠に頑張れるヒトなどおりません。血を吐きながら走り続けても、最後には自分の
身を滅ぼして背負う者と共倒れになるか、休むために背負っていたものを投げ捨てざるを
えなくなるか、どちらにしても最後に待っているのは絶望でしかありません。
栽培というものはね、頑張ろうと思った時点ですでに負けなのです。
そして挫折した自分を責めて自らの身を焼き尽くしても、心のどこかで諦めきれて
いなかった業の深い者は・・どれほど血を吐き続けても死ぬことのかなわぬ身に転生し、
魔の者とヒトが同じ場所で、共に幸せに暮らせる術(すべ)を見つけ出すことを夢見て、
終わりの見えない道を走り続けねばならぬ呪いをうけるのです・・
錬金術師が男の言葉を手帳に書き写している間に、男とその連れ達は雑踏の中に姿を消し、
あわてて探したが、それきり見つからなかった。
次回「後日談その4」 「頑張れば育てられる」それは裏を返せば「少しでもつまずいた時は、すべて枯れる」(至言 山田領に戻った錬金術師がその話を山田に伝えると、山田はしばらくポカンと口をあけていたが
やがて大笑いしはじめた。
「いやぁ参った。人間にはおこがましい事だとは思っていたが、この世界には人間でない
連中がいる事を忘れていた、こいつは本間先生もびっくりだ」
え?何?意味がわからない。ホンマって誰なの?と錬金術師が尋ねたが、山田は聞いては
いなかった。「よし、その男に弟子入りだ!」と叫んでそのまま外に飛び出していった。
そして数日後に「見つからなかった・・」と言ってシオシオと戻ってきた。
その男が何者で、どこから来て、どこに行ったのかはその後もとうとう判らなかった。
そして錬金術師は山田が何を理解し、何を言っていたのか最後まで全然わからなかった。
この章終了。ちょっと長くなりすぎたようです。
次回「樹木人(トレント)の悩み」
お題:イチジクコバチ。 魔道士のローブを着た男ってまさか「その19」で話題に出てきた…
真相不明のままでいいけど読んでてわくわくする 樹人族トレント。樹木系のモンスターで、なおかつ自力で歩き回れる種族の総称。
その形態は生息している異世界ごとに異なっている。切り株に目鼻がついたような種族、
樹木が根をうごめかせながら這いずり回る種族、人間型で肌が樹皮に覆われたような
種族など、きわめて多様性に富んでおり、エルフのように定型的なイメージでは語れない。
そしてこの世界のトレント種族群は(種族によってかなりの違いはあったが)多くの種族
では美しい女性の姿をしていた。なお、この物語に登場する植物系の魔物がどれも
美女の姿をしているのは執筆者の趣味ではなく、収斂進化の奇跡と呼ばれる現象に
よるものである。
そして今回は、王都から山田を尋ねてトレントの夫婦が訪れてきていた。
濃緑色の肌に白い髪の毛の美形で、胸のニ個の貯水球はそれほど大きくはないが、
たいへん整った形状で素晴らしい弾力性を有している。
ちなみに彼らは雌雄異株であるが、カタセタム族のような性的ニ型ではない。
外見的には雌雄ともに人間の美女にしか見えない。そのためこの夫婦は、見た目には
樹木ではなく百合である。
次回「トレントその2」 この夫婦は結婚してだいぶ年月が経っているのだが、いまだに子供ができずに悩んでいた。
二人とも、王都ドームでおこなわれた園芸展で、王立園芸協会のメダル審査のオリハルコンメダルを
受賞した優良個体であり、周囲からは優秀な実生苗を生産することを期待されていた。
そのため特に妻の精神的プレッシャーが高く、最近では心を病みはじめてる兆候すらあった。
子供ができない原因を、植物の繁殖に詳しい山田に調べてほしいというのが夫妻の希望だった。
山田には療術師の資格は無いが、数々の難病・奇病を治した実績は王都ではよく知られていた。
「辺鄙(へんぴ)な土地に住み、女の子の助手を使って、誰にも治せない病気を次々と
治療している無免許の天才療術師」というのが山田の人物像として定着していたのである。
そして山田が夫妻の話を聞いてみたところ、夫妻は「子供の作り方」をまったく知らない、
ということが判明した。
次回「トレントその3」
「あの・・子供って、どうやって作るのですか?」
「えーとですね、オシベとメシベが・・」
「うあ?・・あ、あの、ご領主様、ストレートにそういう単語を口に出されると、
聞いているほうが恥ずかしくなってしまうのですけれど・・
(ピー)とか(ピーピー)とか、そういう言葉を使って説明できませんか」 ここで一般的なトレントの受粉過程について解説しておく。あたかも二人の美女が身体的な
接触を試みているかのような描写となるが、あくまでヒトに酷似した外見の植物が樹体を
接しているにすぎない。そこに扇情的な要素は微塵も無いことをあらかじめ申し上げておく。
受粉を試みるニ株は、樹体を覆う衣服、あるいはそれに類する被覆物をあらかじめ除去
しておく。次に受粉パートナー相互の樹体を、接触面積が最大になるような体勢で密着
させる。しかるのちに相互にパートナーの樹体に、さまざまな方法で刺激を加えていく。
積算刺激量が一定の閾値に達すると開花が開始される。膨張した花弁は大きく開かれ、
柱頭からは粘液が分泌、葯からは花粉が放出される。花蜜が生産され、あえぎ声と共に
花器から花粉媒介者を誘引するための揮発性物質が外部へと流出しはじめる。
この時点で周辺から花粉媒介者である、トレントコバチ(以下コバチ)と呼ばれる
小魔虫が集まってくる。ここでは詳細な解説は省略するが、トレントはコバチが
いなければ受粉できず、またコバチはトレントが存在しなければ繁殖ができない。
トレントの種族ごとに花粉を運ぶコバチの種類もほぼ決まっており、長く続いた
共進化の末に、1種対1種と言ってもさしつかえない密接な共生関係を築いている。
次回「トレントその4」 したがって受粉を希望するトレント夫婦の場合、彼らの種族に対応するコバチの生息域に
出向いて、そこで受粉パートナーと共に屋外受粉行為に励まねばならない。
そしてコバチによって雄株から雌株へと花粉を媒介してもらうのである。
問題の夫婦の場合、そのコバチがどのような種類で、どこに生息しているのかという
知識がまったく無かった。それ以前にコバチが必要であるという事実すら知らなかった。
とはいえ、人間であれば、むしろそういう特殊な知識を有する者のほうが珍しい。
通常はトレントの親から子供へと、性教育として伝えられるはずの知識であった。
だがこの夫婦の場合は、その知識を伝えられる前に親がいなくなっていた。
彼らは暗黒大陸から移民してきたシングルマザーの母親から生まれた双子の姉弟であるが、
母親は二人がまだ小さいうちに魔ナメクジに舐められ、この世を去っていたのである。
ちなみに姉と弟で子作りをするというのは、人間であれば非常にいけない行為である。
しかし、植物には自家受粉で子孫を作ってもまったく近交弱勢をおこさないような種類
も多いので、近親交配という行為が(実際には問題になる種類もかなり多いのだが)
ほとんど問題視されていない。判りやすく言えば、シブリングクロスごときで騒ぐ
園芸家はいないのである。
次回「トレントその5」 花粉媒介者がわからないのであれば、人工授粉するしかない。山田はちょうど開花中
だったトレントの花を詳細に観察し、構造をよく調べた。
ちなみにトレントの花は臍(へそ。トレントは地球のマングローブのように胎生種子で、
体内で実生を育てるため人間と同じように臍がある)の下方、右足の親指と左足の親指の
間に咲く。色は薄いピンク(個体差あり)で、地球のクリトリアの花に似ている。
すると、花の構造が他種族のトレントと大きく異なっていることが判った。
雄蘂(ゆうずい=おしべ)がすべて融合し、花粉は大きな集合塊となっている。
柱頭(ちゅうとう=めしべ先端)もそれに応じて巨大化している。この特徴から考えると
コバチが花粉媒介者だとは考えられない。
次回「トレントその6」
「話は変わりますが、メダル審査とはどういうものなのですか?」
「私達が足を広げて、審査員達が花を観察します。そして花の大きさや形、色艶などに対して
点数をつけていきます。その合計点に対応した各賞のメダルが取得できるという審査会です。
フラグランス審査というのもあって、私はそちらでも高得点でした」 さらに、蜜腺が体内の奥深くに位置しており、花粉塊のある場所から蜜腺までの距離が
人間の前腕の長さほどもある。
山田は首をかしげつつ人工授粉を進めた。そして作業中に考えた仮説はこうである。
彼らの生まれ故郷である暗黒大陸では、コバチではないまったく別の花粉媒介者が
トレントの受粉に関与していて、その何者かは体内深くの蜜腺まで届くような長い
採蜜器官を持っている、と。
のちに暗黒大陸で山田の予言したとおりの特徴を持つ魔物が発見され、
その魔物には「予言された」という意味をもつ学術名がつけられることになった。
次回「トレントその7」 その魔物は寝ているトレントの美女へと忍び寄る。そしてぬめぬめとした赤く長い舌を
トレントの花へと差し込み、その蜜壺に(以下描写自粛)
山田の人工授粉によってトレントの妻は無事に結実し、珠のような雄株の実生苗を
授かった。その後も次々と実生繁殖を続け、アングレカム族のセスキとペダレの夫婦は
幸せに暮らしたという。
よく考えてみたらラン科は樹木ではなかったことに気がついたが、たぶんこの世界では
ランは樹木なのだ。うん、そういうことにしておこう。
そして次の事件がおこる。山田領の北部に巨大な火球が落下した。
次回「宇宙から落ちてきたもの」
マクロな空を貫き、山田領を雷(いかづち)が撃つ。 まさかオーバーテクノロジーでデカルチャーなものが…… 山田領の北部平原、火球落下跡の巨大クレーターの底から、馬車ほどもある巨大な
焼け焦げた塊が発見された。
当初は隕石だと思われていたが、左右対称の形状は自然の隕石だとは考えにくかった。
魔力探査による調査の結果、強靭な外殻と比較的柔らかい内部構造に分かれており、
内部からは生命反応が探知されることが判明した。
「この中には、宇宙から飛来した生命体が存在している」
その結論に山田領は震撼した。もしや飛翔魔法を遥かに超える、星間飛行魔法で飛ぶ宇宙船
だったのだろうか?
だが、識別魔法による鑑定は驚くべき結果を示した。
「宇宙巨大植物 レギオソプラントの種子」
それが謎の物体の正体だったのである。
山田は宇宙植物に造詣が深いといわれる、精霊島に住む精霊王を尋ねて対応策を乞う事にした。
次回「その名は精霊王」
そして山田が精霊島へと向かったその日の夜、クレーター内で雨にうたれた巨大種子には
びしり、とひびが入り、吸水を開始していた。 「はい、そういうわけでわしが精霊王です。セイちゃんと呼んでください」
「精霊王様、軽いです」
「あーいいのよヤマちゃん。趣味家ってのは趣味の分野ではみんな対等だからね。
立場とか肩書なんて無視していいの。あたしらの間では竜王はリュウちゃんだし、
海神王はカイちゃんだし。あー・・マーちゃん?あの人は当分封印されててほしいのう。
敬遠される人って、どうして『あの人』って呼ばれるんかね?」
「他人のふりをしたいからでは?そんな事より宇宙植物の件ですが」
「ああ、外宇宙の深淵から飛来した巨大植物じゃね。たぶん文明が滅ぼされたり
共生している巨大怪獣の群れが人間を襲ったり、街がふっとんだりはしないと思う。
しないんじゃないかな。まあ多少は覚悟しておけと」
「んな適当な。滅ぼされると滅ぼされないでは大違いなんですが」
「いやいや専門家って、断定はしないもんなのよ?いろいろ可能性を考えるからね。
それにねー、植物には個体差ってものがあってね。
あー、もうちょっと納得できるように説明したほうがいいかの?」
「年寄りの長い話は嫌われるんですけど・・ぜひお願いします」
「本音出とるよヤマちゃん。もう少し社交辞令というものをじゃね」
次回「個体差がうんたらかんたら」
その頃、宇宙植物は発芽を開始していた。 「たとえばじゃね、ヤマちゃんの寝室にサキュバスが現れたとするわな」
「サキュバスって・・女の淫魔ですよね?男性とエロい事して精力を吸い取る魔物」
「そうそう、男性の理想の女性に化けて、あんな事やこんな事をしてくれる女魔物。
自分の理想っちゅー部分が重要じゃね。ヤマちゃんは巨乳と貧乳とどっちが好きかの?」
「どちらかというと・・いや、私の性癖はこっちに置いといてですね、
それと植物とどういう関係が」
「まあそのうち判るから。で、ヤマちゃんのストライクゾーンど真ん中の女の子が
フェロモン全開で、すっげーエロい服装して現れて、頬を染めながら上目使いで
『山田さま・・』とか言ってくるわけね。んで、そこは寝室で、密室で、人目も無いと。」
「・・・すいません領館に戻って対魔結界消してサキュバス呼んでいいですか」
「悪霊も入ってくるから現実には駄目じゃけどね。で、ヤマちゃんは思わず彼女に
抱きついてキスしてしまう」
「そして高まるムードと共に彼女をベッドに押し倒して」
「んにゃ、真っ赤になって泣き出した彼女にひっぱたかれる」
「ええええええ何その展開。サキュバスですよ?淫魔ですよエロですよR18ですよ?」
次回「宇宙植物の話はどうなったんだよヲイ」
その頃、宇宙植物は種子の殻がうまく脱げなくて困っていた。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています