ネットのデマは時に大きな社会問題となり得るが、中国では今、子供の健康をめぐって論争が巻き起こっているという。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏が指摘する。

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 我が子には病気に負けない強い子に育ってほしい──。

 親が子にそう願うのは万国共通のことであろう。そのために母親はさまざまな意見に耳を傾ける。そんな子育てに熱心な母親が、何でもかんでも医者に駆け込むことに疑問を持ったとしても不思議ではない。だが、既存の知識に疑いを持ったとしても、それをすべて否定してしまうのもちょっと危険ではないだろうか。

 そんなことを考えさせる論争が中国で起きている。

 きっかけは「恒星育嬰室」というサイトから発せられる子育ての指南であった。曰く、子供にはそもそも自ら病気を克服する能力が備わっている。それを考慮することなく安易に医者にかかり薬を与えてしまえば、かえって免疫力を低下させてしまうことになる、というものだ。

 いわれてみれば確かにもっともらしく聞こえるが、この教えに感化されたママさんたちがいま、中国社会で大きな問題を引き起こしてしまっているというのだ。

 6月23日付で『中国新聞』ネットが『寧波晩報』から転載した記事によれば、39.5度の発熱をしている1歳児を1週間近くもそのままにした母親の話が紹介されている。タイトルは、〈39.5度の発熱をしている女児を医者に診せることを母親が拒絶 薬の服用も拒む その理由はネットでの教え〉だった。

 実際、話題として取り上げられたサイト、「恒星育嬰室」には、さまざまなお母さんたちの体験記が紹介されていて、そのすべてが「子供がアレルギーを自ら治癒した日記」、「手足口病、克服記」、「11回の発熱、3度の扁桃腺の腫れも自ら治癒」、「発熱君、こんにちは!」など、勇ましい書き込みがずらりと並ぶのだ。

 結局、タイトルの女児は伝染病による発熱で会ったことが後に明らかになったというから、危うく一命を落としかねない危機だったというわけだ。


https://www.news-postseven.com/archives/20170717_590538.html
2017.07.17 16:00