8月10日、北朝鮮の国営放送は、弾道ミサイルを米領グアム島沖に4発発射する準備を今月半ばまでに完了させると報じた。その中でミサイルが「日本の島根、広島、高知各県の上空を飛ぶ」と明言した。

これを受けて北朝鮮情勢はにわかに緊迫の度を高めた。米国のドナルド・トランプ大統領は「グアムに何かすれば世界がかつて見たこともない軍事力を目の当たりにするだろう」と応酬。

自衛隊は迎撃ミサイルPAC3の部隊を、島根、広島、愛媛、高知の4県に配備したうえ、高性能レーダーで弾道ミサイルを追尾できるイージス艦を日本海に配置し、24時間態勢で警戒と監視を続けることとした。

さらに政府は、中国・四国地方の9つの県を対象に、Jアラート(全国瞬時警報システム)などを用いた緊急情報の送受信訓練を近く行うことを決めたのである。

ところが、北朝鮮の国営放送が同15日に報じたところによると、金正恩朝鮮労働党委員長は14日に戦略軍司令部を視察。

グアム島沖へのミサイル発射計画の報告を受け、「米国が朝鮮半島周辺で危険な妄動を続ければ、重大な決断を下す」としつつ、「米国の行動をもう少し見守る」と述べた、という。この報道を機に、北朝鮮はグアムへのミサイル発射を留保した、との見方が強まった。

しかし、米国は21日から行う米韓合同軍事演習を予定どおり実施する、と明言した。これは、金委員長の「危険な妄動」に該当し、留保したミサイル発射を行うかもしれないという懸念もある。

5年連続で増えている防衛予算

依然として北朝鮮のミサイル発射は予断を許さない。8月8日に公表された2017年版「防衛白書」でも、北朝鮮の核・ミサイル開発について「新たな段階の脅威」と位置づけ、わが国を射程に入れる新型弾道ミサイルが新たに配備される可能性について言及した。

さらに、北朝鮮が核兵器計画を継続する姿勢を崩していないことを踏まえれば、時間の経過とともに日本が射程内に入る核弾頭搭載弾道ミサイルが配備されるリスクは増大する、と危機感をあらわにしている。わが国にとっては、大陸間弾道ミサイル(ICBM)よりもこれらのほうが脅威となる。

ではわが国の弾道ミサイル防衛はどうなっているのか。確かに防衛予算は、第2次安倍晋三内閣以降5年連続で増えている。とはいえ、北朝鮮の脅威が差し迫ったから、場当たり的に予算を増やして対応しているわけではない。むしろ計画的に防衛力を整備している。

日本の防衛予算は、長期的な戦略に基づきつつ、防衛力を整備する中期的な計画を立て、各年度に必要な経費を計上する形で組まれている。おおむね10年程度の期間を念頭に置いた、外交政策と防衛政策に関する長期的な戦略は「国家安全保障戦略」だ。

現在の国家安全保障戦略は2013年12月に策定され、国際協調主義に基づく積極的平和主義をうたっている。

これを踏まえて防衛力のあり方と保有すべき防衛力の水準を規定する「防衛計画の大綱」(略称、防衛大綱)が策定される。

現在の防衛大綱は2013年12月に策定され、弾道ミサイル防衛としてイージス艦を策定前の6隻から8隻に増やすことや、航空自衛隊の作戦用航空機を策定前の約340機から約360機に増やすことを盛り込む一方、

陸上自衛隊の戦車を約700両から約300両に減らすなどして、実効性の高い統合的な防衛力を効率的に整備することを明示している。

防衛大綱に合わせて5年間の経費の総額と主要装備の整備数量を明示する「中期防衛力整備計画」(略称、中期防)が策定される。同時期に策定された現在の中期防は、2014〜2018年度の自衛隊に関する事業や所要経費などを定めている。

これには弾道ミサイル防衛として、能力向上型のPAC3(地対空誘導弾)を2個群配備することも盛り込まれた。このように、防衛予算は国家安全保障戦略から、防衛大綱、中期防とブレークダウンし、各年度予算を組むという流れとなっている。

イージス・アショア導入を発表した意味

8月3日の内閣改造で就任した小野寺五典防衛大臣は、防衛大綱の見直しに着手するよう、安倍首相から指示されたことを明らかにした。

http://toyokeizai.net/articles/-/185031

>>2以降に続く)