>>1の続き)

その理由として、厳しさを増すわが国の安全保障環境を踏まえ、防衛力を強化し、国民の安全確保に万全を期すことを挙げた。ただ、現在の防衛大綱はおおむね10年程度の期間を念頭に置いているものの、2013年末に策定してまだ5年しか経っていない。

目下、各省で、2018年度予算の概算要求を取りまとめている最中である。とはいえ、2019年度以降の防衛予算については、新たに中期防を策定しなければならず、そのタイミングで変化する安全保障環境に対応すべく防衛大綱も見直すものとみられる。

北朝鮮のグアム攻撃計画が明らかになった最中、8月17日にワシントンで開かれた日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)に合わせ、防衛省は「イージス・アショア」を導入する方針を発表した。

イージス・アショアとは、ミサイル防衛システムのイージス艦と同様の能力がある、地上配備型の迎撃ミサイルシステムだ。ちなみにイージスとは、ギリシャ神話の神ゼウスが与えた盾の名に由来する。

もちろん、これは現在の中期防に盛り込まれていないから、2018年度中に配備することを想定していない。

図らずも、2018年度予算の概算要求を固める時期と、北朝鮮が弾道ミサイルの発射技術を進展させている時期が重なったが、2019年度以降の次期中期防に盛り込むことを想定しての方針の発表だろう。

防衛省内で、イージス・アショアと、韓国でも配備を予定しているTHAAD(高高度迎撃ミサイルシステム)の費用対効果を比較考量したようだが、総額でいくらかけて整備するかを確定できないため、まずはいくらかけるかを調査することから始める。

自衛隊は、弾道ミサイル防衛での装備の充実、能力向上を図っているが、2017年版「防衛白書」では、自衛官の定員と現員についても公表している。2017年3月末現在、自衛官は22万4422人。

予算定員24万7158人に対して、充足率(予算定員に対する現員の割合)は90.8%である。10年前の2007年3月末の自衛官の現員は24万0970人であり、この10年で約1万6500人減っている。

特に1年前の2016年3月末の現員は22万7339人だったから、この1年で約3000人減ったことになる。

特に目立つのは、「士」(自衛隊の階級構成、将官・佐官・尉官・准尉・曹・士の最下位)の充足率だ。士の隊員は、准・曹に従って、最前線中の最前線に赴く。

東洋経済オンラインの当連載「日本は『戦争をできる国』にはなれない」で詳述しているが、日本の自衛隊は、このところ少子高齢化の影響を受けている。士の隊員が足らなければ、わが国の防衛も成り立たない。

最前線の隊員が少ないという構造問題

士の充足率は、2007年3月末に93.1%(現員5万8107人)だったのが、2017年3月末では69.5%(現員3万9395人)と70%を割ってしまった。予算面では士の隊員を増やす余地が残っているのだから、財政状況が厳しいから隊員が減らされたのではないことは明らかだ。

もちろん自衛隊は精強性の確保(平たく言えば、若返り)に努めている。が、高齢化はも次期の防衛大綱や中期防でも、引き続き課題といえよう。北朝鮮問題をめぐっては、何よりこの国自身に、悩ましい課題が多い現状から目をそらしてはいけない。

土居 丈朗(どい たけろう) 慶應義塾大学 経済学部教授
どい たけろう 1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。
行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、社会保障審議会臨時委員、東京都税制調査会委員等を務める。

(おわり)