東京都の小池百合子知事が、関東大震災時に虐殺された朝鮮人犠牲者を慰霊する9月1日の式典への追悼文送付を今年からやめることを決め、波紋が広がっている。都側は「都民の問題提起で数年前から検討していた」と説明。

小池知事の独断ではないことを明らかにしたが、虐殺に関する歴史認識を変えたとも捉えられかねない決定に、識者からは「知事も都も説明不足」との指摘が上がっている。【樋岡徹也、柳澤一男】

式典は日本と韓国・北朝鮮の友好を深めることを目指す「日朝協会」などの市民団体でつくる実行委員会が主催。9月1日に都慰霊協会主催の「大法要」と同じ都立横網町公園(墨田区)の別の場所で催されている。

遅くとも石原慎太郎知事時代から毎年、追悼文を送り、昨年は小池知事も「多くの在日朝鮮人の方々が、言われのない被害を受け、犠牲になられたという事件は、わが国の歴史の中でも稀(まれ)に見る、誠に痛ましい出来事」などと記した。

追悼文を巡っては、今年3月の都議会定例会の一般質問で、古賀俊昭都議(自民)が追悼碑に刻まれている「六千余名に上る朝鮮人が尊い命を奪われた」との文に触れ、「数字の根拠が希薄で追悼の辞の発信を再考すべきだ」と求めた。知事は「今後は私自身が目を通した上で適切に判断する」と答弁した。

このため、今回の送付取りやめは知事の独断と受け止められ、知事も8月25日の定例記者会見で「私自身が判断した」と述べた。だが、経緯を知る都幹部は「数年前から庁内で検討していた」と内情を明かした。

都民から「個別の式典に追悼文を出すのはいかがなものか」との声が寄せられたため検討が始まり、答弁後に経過を知事に報告し、取りやめの了承を得たという。

取りやめの理由について、知事は「大法要で犠牲となった全ての方々への追悼を行っていきたいという意味から、追悼文を出すことは控えさせてもらった」と述べるにとどめ、都公園緑地部は「今後は他団体から追悼文の依頼があっても同様の対応をする」と明言を避けている。

知事と都の見解に、日朝協会東京都連合会の赤石英夫事務局長は「なぜ今年からやめるのか。事務方から合理的な説明はまったくない」と不満を示す。

古賀氏の質問への回答とも取れる判断については「虐殺がなかったとの主張を認めたと思わざるを得ない。歴史修正主義、排外主義の潮流に身を置いている」と非難した。

同会は8月25日付で「虐殺された犠牲者も自然災害によって命を落とした犠牲者と同じ、よって虐殺された朝鮮人らへの追悼の辞は手間だ不要だと言っているのに等しい」などとする抗議声明を提出。墨田区の山本亨区長が知事に追従するなど影響が広がっている。

あるベテラン都議は「都側と話していると『主催団体と北朝鮮は関係がある』と捉えているように感じた。北朝鮮に対する各国の圧力も考慮したのでは」と推測する。

こうした対応について、元都職員の佐々木信夫・中央大教授は「2020年東京五輪・パラリンピックを控えた首都の知事の判断は海外でも注目を集め、外交問題に発展する可能性もある。長年続けてきたことをやめることは、歴史認識を変えたと捉えられる可能性があるだけに、知事も都も丁寧に説明責任を果たすべきだ」と話す。

◇物議醸す

小池氏手法 今回の判断が「排外主義の潮流の中で起きた」と受け止められる背景には、小池知事の政治的スタンスも影響しているとみられる。

知事は、2014年の衆院選で実施した毎日新聞のアンケートで憲法9条改正に「賛成」と答えた。また、知事就任直後には前任の舛添要一氏が、当時の韓国大統領、朴槿恵(パククネ)氏と交わした「韓国人学校用地として都有地を貸与する」との合意を白紙に戻し、物議を醸した。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170901-00000006-mai-soci

>>2以降に続く)