韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は2017年8月、就任して初めて迎えた光復節(8月15日。日本の植民地支配からの解放記念日)の祝賀の辞で「2019年は大韓民国建国と臨時政府樹立100周年を迎える年」と語った。続いて「来年の8・15は大韓民国政府樹立70周年」とも語った。1919年は「建国」、1948年は「政府樹立」と表現したのだ。翌18年の新年記者会見や三・一独立運動記念日にも、大統領は「大韓民国建国100年」にこだわった。政府樹立70周年記念行事は素っ気なく済ませた。反発はあったが、大統領はものともしなかった。

 そんな大統領府(青瓦台)の気流が変わった。「建国100周年」という言葉が消え、「新たな100年」というスローガンが登場した。大統領は1月2日、国立ソウル顕忠院を訪れて「大韓民国の新たな100年」と芳名録に書き込んだ。「建国100年を準備します」と記帳した昨年とは異なるニュアンスだ。大統領府の関係者は「『建国100年』と書くか書かないかを決める会議が開かれたことはないが、今年は『三・一運動と臨時政府樹立100周年』の年」と語った。「建国100年」で不必要な論争をつくり出すまいとするコンセンサスがあった、という声も聞かれた。

 大統領府が無用な建国論争を引っ込めることにしたのなら、いいことだ。今の韓国は1919年の臨時政府で懐妊し、1948年の政府樹立で結実した。「1919年」と「1948年」がなんだと、なぜ争うのか。どちらも大切な韓国の歴史だ。これが、普通の韓国人が持つ合理的な歴史認識だ。

 一部には、韓国政府の態度が変わったのは北朝鮮が理由、という話もあるという。昨年4月の板門店首脳会談の後に「建国100年」という表現がなくなったというのだ。板門店会談で、三・一運動100周年事業を北朝鮮と一緒にやると決めたが、北朝鮮は「大韓民国臨時政府」をかたきのごとく見なしているという。北朝鮮は、臨時政府を「売国奴の民族反逆者・李承晩(イ・スンマン)の分子らで構成された反人民的政府」と呼ぶ。臨時政府が建国の起点になると、論理的には韓国が韓半島(朝鮮半島)唯一の国家になる。いずれも北朝鮮の気分を害する問題ではあるだろう。

 韓国政府は、北朝鮮の機嫌をうかがうため「建国100年」を引っ込めたわけではないだろう。「1919年」が「1948年」をおとしめるだとか、「1948年」が「1919年」を軽んじるとかいって争うのは幼稚だ。悠久の歴史を持つ国が、35年間他国の支配を受けたからといって、それを基準にして「建国〇〇年」だなんだと言うのが話になるのか。建国節論争から抜け出したように、そういう実用的な考えで国のさまざまな懸案を解決していけばいいと思う。

金基哲(キム・ギチョル)論説委員

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2019/01/11/2019011180098.html
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版 2019/01/13 05:01