●遺伝的ルーツを知るだけで人間は激変する
「おまえらこれからインド人バカにしたら張り倒すからな!」

大学の時、親友のT君がいった言葉を思い出す。T君は近畿出身の日本人なのだが、どうやら久しぶりに実家に帰省したところ、父系祖父がインド人船長だったと明かされたそうである。

もともと彼は日本人純血主義者だったのだが、それからインド人に関しては見方が一変してしまった。今ではインド出張にいくたびに、「現地のタクシー運転手に現地語で話しかけられた!」と、うれしがる。異国由来の遺伝的ルーツを知るだけでここまで人間変われるものか、と私は感心したものである。

筆者の経営する投資ファンド運営会社「ミッション・キャピタル」では、Genoplan(ジェノプラン)という米国遺伝子ベンチャーに投資している。消費者の唾液を採取するだけで、リスクの高い疾患や生活習慣病の遺伝的傾向を460以上の項目にわたり解析し、パートナー企業を通じて適したヘルスケア商品などを提供する優良ベンチャーだ。日本にも今年本格参入し、本稿を執筆している今、私は米国カリフォルニアまで共同投資家のVCに会いにきている。

一方、ここカリフォルニアの突き抜ける晴天とはちがい、日本と韓国は外交問題で雰囲気がどんよりだ。つい先日も、久しぶりに会った先輩から「おまえんとこの大統領どうなってんだ!」と突っ込まれて面食らってしまった。

●「反日嫌韓」現象は、敵を間違えたケンカである
「反日嫌韓」の背景として見逃せないのは、(A)政治家のポジショントークと、(B)キュレーションメディアによる憎悪の拡散効果だろう。ポジショントークとは、その人自身の意見に関係なく、立場上いわなければならない発言を指す。横断歩道の信号無視をしていつも妻に叱られる私が、わが子には信号を守れというのと同じである。

どこの国でも政治家は、自分の選挙基盤と内外支持者を意識して、「掲げたい、または言わざるをえない意見」がある。そしてネットを介して、ポジショントークの中でもより過激で扇動的な表現や主張だけが拡散され、社会の分断が助長される現象は、なにも日本に限ったことではない。

特に、歴史に名を残すような政治家のポジショントークは、良くも悪くも計算高く設計されている。たとえばナポレオン三世やムッソリーニが、強硬的外交政策や戦争を推進することで世論の支持を取り付けてきた。

● 日本人は縄文人と弥生人の混血
昨今の国家・民族間の軋轢は、遺伝子科学的に俯瞰ふかんすると新たな視座が生まれて興味深い。

縄文人の祖先集団は、一定の時期まで、中国漢民族の祖先と一緒に大陸を移動していたことがわかっている。われわれ現代人が、約2万年ほど前に絶滅し、ホモサピエンスと交流のなかったはずの人類ネアンデルタール人の遺伝子を引き継いでいることも判明している。

日本では、縄文人が暮らしていたところへ朝鮮半島経由で来た弥生人と混血が進んだ。3000年たったいま、本州の人々で縄文人のゲノムを1割、北海道のアイヌの人々で7割、沖縄の人々で3割保有するまでに、縄文人の血は弥生人の血で「薄まって」いる。

筆者自身、朝鮮半島の金海金氏(キメキムシ)という家系だが、約2000年前の私の先祖が娶めとった相手はインド出身者という説話が、どうやら事実であるらしい。ソウル大学医学部教授がその妃の子孫とされる古墳から遺骨を採取してゲノム解析した結果、インドなど南方系の遺伝子情報を確認できたというのだ。
https://president.jp/articles/-/30045?page=2

金 武偉(キム・ムイ)
ミッション・キャピタル マネージング・パートナー
1979年京都府生まれ。UCLA卒業後、ゴールドマン・サックス証券入社。ボストン大学ロースクール履修後、ニューヨーク州で弁護士資格を取得。サリヴァン・アンド・クロムウェル法律事務所で約5年間国際案件に携わった後、ユニゾン・キャピタル投資チームに参画。その後、ベンチャー経営に転身し、2018年8月より現職。

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