「BTSを読む」インタビュー 新しいのに懐かしい?次世代K-POPに全米が熱狂する理由


韓国出身の7人組ヒップホップグループ、BTS(防弾少年団)が世界的な人気を呼んでいる。2018年以降、アルバムは4枚連続で全米1位(ビルボード誌)。2018〜19年のワールドツアーでは日韓だけでなく、欧米の巨大スタジアムをファンが埋め尽くした。主に韓国語で歌うアイドルグループが、なぜ全米を熱狂させるのか。日本からは見えにくい「BTS現象」について『BTSを読む』(柏書房)著者のキム・ヨンデさんと翻訳者の桑畑優香さんに、背景も含めて聞いた。

●BTSはなぜアメリカを熱狂させるのか

――BTSを知り「これは大変な現象だ」と感じたのはいつごろですか?

キム 2013年のデビュー前から噂は聞いていました。韓国3大芸能事務所の一つ、JYPエンターテインメント出身のパン・シヒョクという作曲家は業界で有名でしたから、そのパンがデビューさせる新たなグループだという程度の認識でした。
 翌年、たまたまネットで見たKCON(アメリカで開かれる、K-POPアーティストや韓流文化の紹介イベント)の出演者リストに、BTSの名前を見つけました。行ってみると、ショーケースも記者会見も、無名の新人BTSにものすごい多くの人が集まっていました。人数もそうですが、表情や熱狂的な反応から「何か新しいことが始まっている」と直感したんです。その後、BTSはアメリカで着実にファンを増やし、2018年のブレークの下地を作りました。


桑畑 私もデビュー当時から見ていましたけど、Block Bなど、当時デビューしたヒップホップ系アーティストの一つという感覚でした。2016年の来日時にインタビューしたときも、まだファンミーティングの会場の席には余裕がありました。やはり火がついたのは2018年、アメリカで評価され、いろんなメディアから「どんなグループなの」という問い合わせや執筆依頼が相次いだのを覚えています。


キム 当時、私はK-POPの方向性が変化しているのを実感していました。BIGBANGやBlock Bがアメリカで人気を得て、K-POP自体もEDMやダンスミュージックから、R&Bやヒップホップが主流になっていきました。それがアメリカ市場の趣向と合ったことが、BTS成功の背景ではないかと思います。
 BTSはK-POPが持つ、すべての遺産を相続しましたが、それに新たなものを加えた最先端の進化モデルです。ストーリー性が音楽同様に重視される、真摯な音楽という新たなモデルを実現したのだと思います。


――6月7日、オバマ前米大統領やノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイさん、歌手レディー・ガガといった人々が集まるオンライン仮想卒業式に、BTSが登壇し「僕たちは一人だけど、いつもともにある」といったスピーチをしました。ユニセフのLOVE MYSELFキャンペーンで暴力反対を訴え、2018年には国連総会でも演説しています。BTSのメッセージを、国際社会が高く評価する理由は何でしょうか?


キム BTSは誰もが認めるスーパースターですが、一方で一人の若者として分かち合えるストーリーがあります。挫折、寂しさ、不安、不確実さ…。この日のBTSメンバーの演説も、自分たちの抱える不安を率直に打ち明けていましたが、それは卒業を控えた学生の心境でもあります。世界を舞台に活躍するBTSが、素直で日常的で、ある意味平凡なメッセージを投げかけることで、「悩んでいるのは自分一人じゃない」とわかり、力強い感動を呼ぶのです。BTSのメッセージは、国家や民族、宗教といった壁を完全に超え、アメリカでは他のどんな外国出身アーティストよりも大きな影響力を見せています。


桑畑 日本でもBTSはとても人気ですが、不思議なくらい、メッセージを受け止めて共感する人が多いですね。K-POPグループは、曲とダンスに加え、外見や礼儀正しさなどに親近感を感じる人も多いのですが、BTSのファンに聞くと、ほぼ全員が「彼らのメッセージがまさに今、私が悩んでいることだ」と答えます。彼らが発する言葉が、日本でも共感を呼んでいるんだと思います。
 さらに、スロベニアやハンガリーなど東欧や中東のファンにも話をきいたことがありますが、「つらいときにBTSの曲、歌詞が自分を救ってくれた」と語っていました。キムさんがおっしゃる通り、同時代の世界の若者が同じ悩みを抱え、メッセージに共感し、拡散する。それはSNSにも通じる特徴かもしれません。


朝日新聞:好書好日
https://book.asahi.com/article/13501940