日本国民は喧嘩を売られた。

 本欄では再三再四、日銀人事の重要性を訴えてきた。日本の金融政策、すなわち経済政策は日本銀行の政策決定会合で決められる。決めるのは、1人の総裁、2人の副総裁、6人の委員。

 現在、景気回復に賛成なのは黒田東彦総裁、それに「リフレ派」と言われる若田部昌澄副総裁、片岡剛士委員、安達誠司委員、野口旭委員の計5人だ。「衣の下から金利の引き上げ」で、今の黒田バズーカを止めたくて仕方がない衝動に駆られているのが、日銀出身の雨宮正佳副総裁。他の3人は基本的に総裁に追随する人たちと見られている。

 7月にその中で、リフレ派の中でも景気回復最強硬派の片岡委員を含めた2人の委員が交代する。その人事は、岸田内閣の経済政策の試金石と目されてきた。3月1日に提示された案は、田村直樹氏と高田創氏だ。市場は、田村氏を人畜無害だと看做しているようだ。

 一方で、高田氏は知る人ぞ知る、筋金入りの反リフレ派だ。試しに「高田創 とんでも」と検索してみよ。自分で「とんでも」を名乗っているが、事実「景気回復など諦めて、さっさと金利を引き上げよ」などと放言している。この人事は岸田首相自らが厳選したとのことだが、つまり日本人は宣戦布告を受け取った。岸田文雄首相からだ。

 岸田内閣は夏の参議院選挙で勝つまでは、何が何でも事なかれ主義を貫くつもりらしい。しかし、選挙を乗り切ればどうか。景気回復路線を止めるのは明らかだし、隙あらば「増税」に言及する側近に溢れている。地獄の到来だ。

 もしかしたら「マスクを外して良いから増税を飲め」と要求してくるかもしれない。一部のヤブ医者どもは「7月にはマスクを外せるかもしれない」などとほざいているが、参議院選挙までは国民に猿轡を嵌めようとの魂胆以外に何があるのか。その時、DV夫に洗脳された薄幸の妻のような精神状態に追いやられた日本国民の大半は、唯々諾々と応じるだろう。感謝しながら。

 牙を隠す岸田自民党に政権担当能力があれば、まだ救いがある。しかし、ウクライナ情勢への対応を見せつけられると、絶望しかない。

 まずロシアがウクライナを侵略した同時刻。岸田首相は参議院予算委員会に出席していた。立憲民主党の蓮舫議員が「国家安全保障会議を開かなくていいのですか。我々は柔軟な対応をしますよ」と呼びかけているのに、「適切な時期に開きます」としか答えなかった。

 その場で「今すぐ開きます」と答えられない時点で、事の優先順位がついていない。隣国が侵略戦争を始めた以上に重要な事柄、何があるのか? 結局、役人からカンペが差し入れられて、委員会を中断、国家安全保障会議を開くに至ったが。

 蓮舫議員と言えば「最悪の民主党政権」の象徴のような人物だ。だが、今や自民党の政権担当能力は、その蓮舫以下に落ちぶれた。自民党幹部は「野党に言われて開いたのではない」と強弁するが、昔の自民党なら野党に言われる前にカンペを差し入れたものだ。

 プーチンのウクライナ侵攻に際して、G7各国は経済制裁、SWIFTからの排除を決断した。アメリカにイギリスとカナダは即座に同意、フランス・ドイツ・イタリアも賛同した。後刻、アメリカは「岸田文雄首相と日本政府はプーチン氏のウクライナ攻撃を非難するリーダーだ」と、わざわざ声明した。要するに、日本は他の国の陰に隠れてロシアに石を投げようとしたら、アメリカに「お前が前に出ろ」と突き出された格好だ。

 自民党には「NATOの話なので、あちらの調整を待っていた」などと意味不明な言い訳をSNSで絶叫する国会議員もいるが、恥ずかしくないのか? 調整とは平時に行うこと。戦時において即座に旗幟を鮮明にするのが政治だ。調整など官僚でもできるが、戦時における決断は政治家にしかできない。むしろ米欧諸国が手間取っているなら、自由主義陣営の間で日本が尊敬される好機だったではないか。愚かな……。

 一方で、「ロシア経済分野協力担当大臣」なる、世にも恥ずかしい大臣だけは、なぜか絶対に無くさない。野党の国民民主党の玉木雄一郎代表や伊藤孝恵参議院議員やNHK党の浜田聡参議院議員に「ロシア大臣」の廃止を提言されても、岸田首相は明確に拒否する。ただしその理由は「経済制裁を行うのが大事であって、大臣を廃止するつもりはない」と日本語になっていないが。どこの国の総理大臣だ?

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