旧統一教会がソウルで「日本メディアの偏向報道」にデモ抗議 “なぜ日本でやらないの?”と参加者に聞いてみたら…
菅野 朋子

「宗教弾圧、歪曲報道を中断しろ!」

壇上からこう声があがり、シュプレヒコールが続いていく。その声は最初こそ小さかったが、次第に大きくなっていった。壇場下には信者が持つ「世界平和統一家庭連合に対する日本の言論の歪曲・偏向報道抗議集会及び平和行進」と韓国語と日本語で書かれた横断幕が揺れていた。

●韓国に嫁いだ日本人信徒による抗議デモが発生
8月18日午後2時。ソウル市内中心部で「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)が「在韓日本人の安倍首相逝去への立場を明らかにする 宗教弾圧の拉致監禁と日本メディアに対する私たちの立場」を掲げ、大規模な抗議デモを行った。主催者は、「世界平和統一家庭連合 在韓日本信徒メディア被害対策委員会」とある。参加したのは、合同結婚式で韓国に嫁ぎ、韓国全国に住む日本人女性や2世など4000人(主催者側発表、警察発表では3500人あまり)で、幼い子どもの手を引く母親もいた。

デモが行われた場所は観光の名所、朝鮮時代の王宮・景福宮前の幅広の歩道。壁の向こう側には朝鮮時代の王室の遺物が収集、展示されている国立古宮博物館がある。

観光ガイドを手にした観光客が写真を撮る景福宮光化門の左手から蛍光色が目立つ、反射ベストをつけた人たちがデモ参加者を囲うようにずらりと並び、歩行者を誘導していた。20代の若者のようにも見える。皆同じ姿だったため、遠目に見た時はセキュリティかと思ったが、「信者ですか? それともセキュリティのアルバイトですか?」と日本語で訊いてみた。しかし、困ったような目つきで何も言わない。韓国語で再度訊くとただ困ったような目つきで黙礼された。足下にはペットボトルがあった。

●「日本での宗教の自由が守られるようにしてほしい」
日本語と韓国語で書かれたプラカードには、「家庭連合に対する偏向報道を許すな!」「家庭連合に対するヘイトスピーチをやめよ!」「拉致監禁、強制改宗を許すな!」「普遍的人権、信仰の自由を尊重せよ!」などの文言が並んでいる。デモの人々の傍らを、韓服を着た外国人観光客が、「思ったより軽いかも」、「歩くのがたいへん」などと楽しそうに話しながら通り過ぎていく。

壇上からは、対策委員長の日本人女性が「安倍晋三元首相の銃撃事件について警察の調査がまだ続いているにもかかわらず、容疑者の犯行動機が『家庭連合への恨み』という不正確な情報により歪曲報道が続いている」とし、「これを先導し、信者を拉致・監禁し脱退するよう説得しようとする専門家と、これに協力するキリスト教牧師、共産主義の左派系弁護士を強く糾弾します」と声を上げた。

副委員長の日本人女性も「日本のメディアは事実と関係のない刺激的な偏向報道を止めて、日本での宗教の自由が守られるようにしてほしい」とつなげ、親族に脱退を迫られたという信者は、親族の協力者である牧師に監禁されたと涙ながらに訴えた。

そして、日本人の母親と韓国人の父親の間に生まれたという男性信者は、「日本にいる友人から会社を解雇されたと連絡が来た。理由は統一教会だからと。こんなことがあっていいのか」と叫んでいた。

●日本メディアへの抗議を韓国で行う理由
1時間ほど集会を行った後は景福宮から徒歩15分ほどにある東和免税店の入っている建物までの行進が始まった。蛇腹のように続く長い列には驚いたが、デモの多い韓国にあっては見慣れた光景。デモには特に目を留めず、新しくできた光化門広場で思い思い写真を撮ったり、休んでいる人が目についた。

行進に沿って歩道を歩いて行くと、被っていた紙製の白色と水色のサンバイザーを手にした信者たちが引き返してきた。訊くと、「戻れっていわれて」と言う。引き返してきた信者に、どうして日本メディアへの抗議を韓国で行ったのか、訊いてみた。

答えのほとんどは「よく分からない」「他の人に訊いて」だったが、ひとりの信者はこう話した。

「日本には行けないから、日本の信徒の代わりにしたのよ」

どこに住んでいるのか、いつ頃から韓国に来たのかなども聞いてみたが、皆慌ただしく去って行った。

駐韓日本大使館前でもデモを行うという話もあり、「●△■教会がやるって言っていたと思うけど、今頃やっているんじゃない」と信者の一人が言うので行ってみたが、建設中の日本大使館前には誰もいなかった。

https://www.jiji.com/jc/bunshun?id=56780