日本人駐在員の拘束が長引くなど、日中関係には不穏な空気が漂っているが、中国人の間では今、空前の「日本ブーム」が巻き起こっている。日本アニメ『すずめの戸締まり』や『THE FIRST SLAM DUNK』が記録的大ヒットを飛ばしたことからも分かるように、彼らの日本への関心はかつてないほど高い。なぜ、中国人はここまで日本を高く評価するようになったのか。そして、日本の何に強い興味を持っているのか。(ジャーナリスト 中島 恵)

● 中国で今最も多く流れている「海外」ニュースは、日本に関すること

 日本のメディアだけを見ていると気付きにくいが、中国のメディアをチェックすると、日々、日本に関する大量の情報が出回っていて驚かされる。

 3月、音楽家の坂本龍一氏が死去した際は、中国でも速報され、微博(ウェイボー)のホットワードランキングで第1位、SNSでの拡散は日本以上ではないか、と思うほどすさまじかった。SNSには「偉大な坂本先生、安らかに」など追悼コメントが多数投稿され、中国人の坂本氏に対する愛情やリスペクトをひしひしと感じた。

 坂本氏のニュースだけではない。2022年7月、安倍晋三元首相が銃撃されて死去した際なども同様で、その拡散のスピードと関心の高さ、情報量の多さと詳細さに筆者は舌を巻いた。

 むろん、欧米など世界のニュースも中国では報道されているが、ダントツで多いのは日本に関する情報で、政治から芸能ネタまで、他国の情報を圧倒している。なぜ、中国人はここまで日本に強い関心を持ち、日本を評価するようになったのだろうか。

● なぜ中国人の日本に関する興味が高まったのか

 背景にあるのは、まずSNSの力だ。中国のSNSが発達し始めたのはスマホが普及した2013~2014年頃からだが、大手メディアのニュースがアプリでほぼ無料で読めるようになったのも2014年頃からで、中国人にとって「情報」の意味が変わった。政府から与えられる「政治宣伝」(プロパガンダ)だけではなく、自らの意思で情報を“選択”して、入手するものになった。

 政府が発信する情報をうのみにしていた人もいたが、友人や知人が発信する「生の日本」はそれとは異なるもので、次第に興味を抱く人が増えた。「微博」だけでなく、個人が気軽に発信できる「微信(ウィーチャット)」「斗音(ドウイン=動画アプリ)」「小紅書(中国版インスタ)」など「自媒体」(個人メディア)の影響力が強くなったことも大きい。

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 対照的に、日本に対しては「安心・安全な国」という認識が以前にも増して強くなった。むろん、日本人からすれば、近年は、日本も安心・安全とはいえない状況になってきていると感じるが、ゼロコロナ政策で移動を強く制限され、政府の鶴の一声によって、一瞬で自由や人権が奪われるかもしれない中国は次元が異なる。厳しい環境に暮らす彼らにとって、日本は自国とは比べ物にならないほど安全で、理想的な国だ。そのことを、コロナで再認識した人が多い。

 2022年、中国での生活に耐えきれず、日本の不動産を購入し、日本に移住してきたある男性は「ゼロコロナ政策で身も心も疲れ果てていたが、日本ではコロナ禍でも社会の秩序は保たれ、人々は落ち着いた生活を送っていることに驚いた。日本での生活は、中国で感じるようなストレスがない」と語っていた。

 また、来日できないまでも、日本に対して「郷愁」「憧れ」「共感」を持つ中国人が増えた。「コロナで日本旅行に行きたくても行けないから」と、ネットで買ったコタツをリビングに置いて、日本風の生活を楽しんだり、日本風のラーメン店や、昭和の雰囲気が漂う居酒屋に足繁く通ったりする人が増えた。特にZ世代と呼ばれる10代後半~20代の若者の間では、昭和を代表するアイドルにハマる人が急増。昭和風のレトロな写真を撮影してSNSに載せたり、昭和アイドルの曲を聴いたりするのがはやった。生き馬の目を抜く中国での生活はとにかく目まぐるしく、人々は常に緊張しているが、そんな中、SNSで、日本の穏やかな生活を見て、憧れの気持ちを抱いた人が多い。

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 このように、中国人が「日本を買っている」(高く評価している)のは、不動産から専門的な商品まで多岐にわたるが、それは、彼らが日本を乗っ取ろう、日本製品を買い占めようと思っているわけではなく、中国には「ないもの」が、日本にはあまりにも多く、しかも、魅力的だからなのだ。

全文はソースで
https://news.yahoo.co.jp/articles/b61310b4f86ab97b06c64325258d76f57c4bafda?page=1