【経済ニュース 深読み・先取り】

 中国の狙いは何でしょうか──。「輸出管理法」と「対外貿易法」に基づき、中国は8月1日からレアメタル(希少金属)のガリウム(Ga)とゲルマニウム(Ge)の輸出を許可制としました。

 ガリウムとゲルマニウムは次世代半導体の素材として使われています。スマホの顔認証向け面発光レーザー、液晶テレビのバックライトに使われる白色発光ダイオードなどに不可欠な素材です。

 一方、日本は7月下旬に最先端半導体の製造や開発に必要な製品で対中国輸出規制を開始しています。繊細な回路パターンを基板に記録する露光装置や、半導体の洗浄・検査に用いる装置など23品目です。中国は対抗措置ではないとしていますが、日本をはじめ欧米諸国に動揺が広がっています。

 先週27日付の日経新聞に「半導体用レアメタル高騰」という記事が掲載されました。中国が世界生産の9割を握るガリウムは、6月末と比べ18%高。同じく中国が6~7割を占めるゲルマニウムは、規制発表前に比べ4%上昇しているとのこと。このままだと日米欧の半導体製造に影響が出かねません。

 中国がレアメタルを武器に、日米欧を揺さぶるのは初めてではありません。2010年にもレアメタル規制を実施し、世界不安が広がりました。

 ただ、規制は“失敗”でした。日米欧はWTOに提訴し、中国内ではレアメタルの密貿易が盛んになったと伝わりました。米ニューズウィークの報道では、2011年のレアメタル輸出量は中国によると1万7000トンでしたが、世界各国の輸入量を合計すると4万トンにのぼったというのです。つまり、2万トンを超す量が密貿易だった可能性があります。

 今回、中国が規制品目を2品目に絞ったのは、レアメタル全体を対象にすると、密貿易が活発になるだけという読みが働いたのかもしれません。

■価格は高騰したが…

 世界の工場として多くの外資が中国に参入しました。しかし、現在は外資の撤退が顕著になりはじめ、経済成長は鈍くなっています。国民の不満が共産党政権に向かうのを、習政権は何としても避けなければなりません。

 中国では16歳から24歳の失業率が20%に達しているといいます。これ以上、外資が中国から脱出したら大変です。ビル・ゲイツ氏やイーロン・マスク氏の訪中を中国政府が歓迎したのも、中国撤退を警戒したためでしょう。

 またしても中国はレアメタルで揺さぶりをかけ、価格上昇など一定の成果はあげています。ただ、日米欧が本気を出せば、ガリウムもゲルマニウムも生産は可能です。この2つは、アルミニウムや亜鉛の副産物として産出可能だからです。現在は、価格の安い中国産を利用しているだけで、生産そのものは難しいものではありません。

 中国は上げた拳をどう下ろすのか。日米欧は冷静沈着に見ているといえそうです。

(IMSアセットマネジメント代表・清水秀和)

https://news.yahoo.co.jp/articles/de087a862d44a91ff5c7b517adf68c834a1646d5