広島市の松井一実市長は、6日の平和記念式典で「核による威嚇を行う為政者がいるという現実を踏まえるならば、
世界中の指導者は、核抑止論は破綻しているということを直視し、私たちを厳しい現実から理想へと導くための
具体的な取り組みを早急に始める必要があるのではないでしょうか」と述べ、日本は核兵器禁止条約の締約国になるべきだとした。

核抑止論とは、核兵器による反撃を恐れさせることで攻撃を思いとどまらせるという理論だ。
2005年のノーベル経済学賞を受賞したトーマス・シェリング氏は、ゲーム理論の現実社会への応用分析が評価されたが、
そのキモは、互いに相手の出方を考えながらそれぞれの行動が変わりうるというものだ。

これを国家対国家に置き換えると、核抑止論も入ってくる。実際、シェリング氏は1960年の『紛争の戦略』で、
そのオリジナルの萌芽(ほうが)がある。

冷戦下で重要とされた戦略に自動反撃機能がある。これは、相手が核を発射したらこちらから核を自動発射するということにすれば、
共倒れとなるので、米ソ両国は先制攻撃を控えるというものだ。

この応用問題で、核保有国と非保有国なら、保有国が脅せば非保有国はなすすべがないばかりか、
窮地に陥った非保有国を助けようとする核保有国もうかつに手出しができなくなる。
まさに、今のロシア、ウクライナ、米国の関係そのものだ。

「抑止論が破綻している」というなら、それこそノーベル賞ものだ。むしろ抑止論のロジックは今の状況でも妥当しているのが、
ウクライナの例でも分かるだろう。ウクライナは核保有国だったが、非保有国になったので、今日の悲惨な状況が生じている。

米国とロシアをみると、米国が通常兵器を惜しみなくウクライナに投入すればロシアを撃退できる。
米国がそれをやらないのはロシアが核兵器を持っているからだ。

さらに、この実例で、ウクライナを日本に置き換えるとどうなるのか。また、ロシアを中国や北朝鮮に置き換えてもいい。

松井市長は、これでも日本が核兵器禁止条約の締約国になれというのか。
ガンジーの非暴力主義を例示しているがインドは核保有国だ。

もう相手国の出方を無視した「お花畑議論」はすべきでない。ウクライナの二の舞いになるだけだ。

ゲーム理論からの平和のための最適解は、日本も核兵器を保有する、もしくは核共有だ。
中国、ロシア、北朝鮮という核保有国に囲まれ、日本と似た状況の韓国では既に国民の大多数がそう考えている。

古くからの格言にも「汝平和を欲さば、戦への備えをせよ」というのがある。日本は被爆国だからこそ、
惨禍を二度と繰り返さないために、核保有か核共有の議論を避けてはいけないし、そう主張する権利がある。

夕刊フジ 2023.8/12 15:00
https://www.zakzak.co.jp/article/20230812-M37QMKRKGFLSLB4DXYXVFTQ56A/