2月25日から3月3日まで7泊8日で上海とその近郊都市を訪問した。今回は、その中で学んだ中国のEV化の歴史と今後の見通しについて書いてみたい。

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 次に驚いたのが、街が静かなこと。上海の人口は2500万人と巨大で朝夕のラッシュが酷いが、その割に静かだ。特にクラクションの音がほとんど聞こえない。今は、クラクションを無闇に鳴らすと罰金。ウィンカーを出さずに車線変更するとこれまた罰金である。日本でも反則金や罰金があるが、よほど運が悪くなければ捕まらないのに対して、上海では摘発される事例が数多く、運転マナーが劇的に向上したそうだ。EVが音を出さないことと相まって、静かな上海が実現している。

 さらに予想と違ったのが、空気が意外ときれいなこと。ガソリン車の排ガス規制が強化された上にEV化の進展で排ガスが大幅に減ったという。

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 中国政府がEV最優先政策に舵を切った理由は4つある。

 まず、産業の高度化(高付加価値化)に資すること。次に、先進国との競争に新しい道を開くこと。第3に、国家安全保障上大きなメリットがあること。第4に騒音、大気汚染などの環境問題の解決に繋がり、さらには脱炭素対策に大きく貢献することであった。

 中でも、EV化を単なる自動車産業政策としてではなく、国家安全保障の問題として位置づけたことが特徴である。対外依存度の高い石油から水力、風力、太陽光を推進してエネルギー安全保障を確立する政策の一環として、新たな電力供給構造の一部を構成する形でEV化が位置づけられた。また、当時は北京の大気汚染が深刻で、その解決のために石炭火力から再エネ中心のエネルギー構造を目指す上でEV化が不可欠だと位置づけられたこともその後の一貫した政策の後ろ盾となった。

 エネルギー政策、環境政策、産業政策の連携がなく、場当たり的な対応となっている日本が学ぶべき点である。

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 一方、中国側がそこまでしてテスラを誘致した最大の理由は「ナマズ効果」である。

 中国では生簀の中で元気を失った魚の群れにナマズを放り込むと捕食されるのを恐れて元気が蘇るという言い伝えがあるらしい。国内EV産業にテスラという強敵を送り込み、国産メーカーを存立危機に陥らせる。これにより覚醒して競争力が増すという戦略である。これが見事に当たった。

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 今後は、大都市だけでなく、低所得人口支援政策(中国政府の最大の政策目標の一つである)の一環として農村でのEV普及が進められるはずだ。公共交通機関の全面EV化(寒冷地を除く)も進む。さらに、自動運転を認める地域をさらに広げ、完全自動運転に近いレベル4にもっていく政策もまた加速されるだろう。

 輸出も東南アジアと中東を中心に拡大する。タイなどでの生産も始まった。中国にはEV利用のデータが世界一豊富にある。これによりEVや自動運転などに関連する新たなサービスを生み出す競争で中国企業が圧倒的に有利になる。また、さまざまな国際標準をとりにいく上でも強みになるはずだ。

 一方、アメリカでは政治的理由によりEV化のスピードが落ちる可能性が高い。中国も経済不振によりEV化が減速するかもしれない。欧州は中国製EVの輸入関税を引き上げる可能性がある。これらの流れを見て、EV化には逆風が吹き始めたと囃し立てる向きもある。

 EV化で中国勢にどんどん引き離されるテスラ以外の日米欧のメーカーは焦っているため、世界的なEV化減速を待望しているかもしれない。

 だが、少なくとも、中国では、EV化の流れは止まらない。国家安全保障政策の一環だから、これを止めることはあり得ないのだ。

 日本がEV化の減速を喜び、少しでもEV化への努力を怠れば、将来に大きな禍根を残すだろう。自動車産業だけでなく、エネルギー産業も含めて中国に後れをとり、国家安全保障の面でも大きな過ちを犯したと後悔する日が来るだろうという警鐘を鳴らしておきたい。

全文はソースで
https://news.yahoo.co.jp/articles/ea77a424aaba6b47e3cf9dcee141927b10a25433?page=1