私は冬の最期の温かみに触れながら、そう、あの時の、満開の花が咲くころを、待っていたのだった。

「お母さん、もう春が来たの?」5歳のたけるが尋ねた。
「冬が終わったから」私はそう言い返した。
「お母さん、いつも説明不足でなんだかよくわからないよ」たけるが嘆いた。
「いつかまた」
「お母さん、もう花は八分咲きかな?」
「そういうこと」

辺りを見渡すと、旦那の兼五郎が見えた。

「兼五郎って漢字は、たけるにはまだ書けはしないか」
「お父さん、兼なんて簡単だよ」
「ほう。簡単といったな。じゃあ花子も書けるんだよな」
「花子も書けるよ」
「私の名前書けるのね」

そうか、と兼五郎は頷く。三人家族で森林を歩いていると、満開の花が、視界にとらえられる。

「お母さん、やっぱ花咲いてるね」
「良かった」兼五郎は微笑んだ。
「満開の花、今年も見れたね」