2023年の現実と未来

 筆者(倉本圭造、経営コンサルタント)は前回の記事「「EV全振り」しない日本車メーカーは正しかった! しかし“EV信者”とのコミュニケーションは破綻寸前、今後どうするのか?」(2024年2月7日配信)で、

・2022年末頃に予測されていた、一気に電気自動車(EV)に置き換わるという見通しは、2023年後半から徐々に修正されている
・つなぎとしてのハイブリッド車(HV)の重要性が見直され、EVに「全振り」しなかった日本車メーカーの戦略は、少なくとも直近では合理的である
・しかし、超長期的にはEVシフトに取り組まなければならないことは明らかであり、短期的な日本企業の最適戦略とEV開発に後れを取らないためのキャッチアップの両方が重要である

という話をした。

 今回は、日本のSNSにまん延しがちな「EV否定論」にどう対処すべきかについて、自動車市場における競争を政治戦の観点から見直してみたい。

EV否定論はむしろ味方

 前回も書いたように、少なくとも直近の日本車メーカーにとっては、EVに全振りするよりも、HVも含めた多様な選択肢を用意することが最適解である。

 ただし、政治的な思惑も含まれており、販売台数の多い欧米や中国などの市場では、今後強力な規制の包囲網が狭まっていくこともある。従って、日本車メーカーは、現在遅れているEVの開発に努力しなければならない。

 前回の末尾で詳述したように、各自動車メーカーの“消極姿勢”は、必然的にそう見えているにすぎない。数年前ならともかく、現在の日本車メーカーで一定以上出世した人なら、EV時代への対応を否定する人はほとんどいない。そうなると、日本のSNSや一部の自動車メーカー関係者に広がるEV否定論にどう対処するかが問題となる。

 結論からいえば、少なくとも自動車メーカーの首脳部レベルで危機感が共有されている以上、EV否定論のようなものがある程度流布していることは

「その状況ごと生かしていく」

べきである。なぜなら、EV市場の主導権争いは、単なる市場競争ではなく政治戦になるからだ。

 HV時代が1年でも延びれば有利な日本車メーカーは、世界中にいるEV否定論を消して回る必要はない。折に触れてリップサービスし、エンジン車を愛する同志との絆を温めておけば、

「残存者利益戦略」

という点で非常に重要な意味を持つ。

(略)

「対立者をディスらない姿勢」が大事

 全方位の選択肢を残すトヨタが、直近ではHVを売りまくって、二酸化炭素排出量削減に大きく貢献しているにもかかわらず、EV原理主義の立場から一方的な批判にさらされている。

 しかし、唯一の選択肢以外は認めないという態度をとり続ければ、経済的、政治的、その他の事情でその唯一の選択肢をとることができない状況に陥ったとき、気候変動対策の必要性を否定し始めることにならないだろうか。

 HVの復権に関する海外メディア・ビジネスインサイダーの記事「アメリカの消費者はEVよりもハイブリッド車を求めている」に、あるアナリストの次のような印象的な発言があった。

「(関係者は)HVのメリットや、将来的によりクリーンな環境にするためのギャップをいかにして埋めるのかについてはちゃんとした議論を避けていたようだ。それに関してホンダとトヨタ以外、みんな何を考えていたのだろうか」

 EVへの移行を唯一の正義として、それに同調しない人を悪として押し込めば押し込むほど、最初の段階では「彼らは悪」「私たちは善」を分ける特権意識で熱狂を得られるかもしれないが、そこから先は世界の半分がどんどん敵になっていく。

 そして、気候変動対策はインテリがでっち上げた陰謀だと強く信じている人たちが世界に何億人もいれば、気候変動対策を円滑に実施するのはさらに難しくなる。だからこそ、対立者をディスらない姿勢で

「確かに、エンジン車は魅力的ですよね。私も大好きです。でも、これからはエコも大事ですし、HVから始めてみてはどうですか。停止状態からの加速はEVのよさを存分に味わえますし、なかなか悪くないって感じになりますよ。気に入ったら、ぜひ純粋なEVに試乗してみてください」

という態度をとり続けるプレーヤーがいることは、人類全体のレベルで気候変動対策を本当に実行したいのであれば、むしろ非常に重要である。

全文はソースで

https://news.yahoo.co.jp/articles/bc9a72f4bed95eb347d8f89cfbb2ea60bf8d14a8?page=1